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5話 ハニーベリー



 鍛錬後、クタクタになって横になっているとロイが近づいてきた。


 「かなり良くなってきているな。荒い部分が無くなってきているぞ」

 「良くなってきている?顔面に一撃も入れられていないのに?」

 鍛錬後の疲労が溜まっているせいか、ため息交じりに返答した。

 「あのな………顔面に一撃食らわすかどうかは重要じゃ無い。気づいてたと思うけど、俺は今日の立ち会いでわざと隙を見せたんだ。お前が罠に食いついた瞬間にカウンターを食らわせる予定だったんだよ」


 この兄、今日が誕生日の弟に対してえげつない行為を実行しようとしていた。


 「でもお前は食いつかなかった。それどころか2回ほど危うく顔面に一撃もらうところだった。」


 「何回も立ち会っていたら相手の癖でわかると思うけど…わざと隙を作ったから、そっちに気を取られすぎたんじゃないの?」


 ラプトはこう言ってるけど、本当にそうか?俺はこの前、士官学校に見学に行った時に下級訓練生を相手に試合をした際に、同じように隙を見せたが4人中4人とも引っかかったぞ。

 下級訓練生と言っても、士官学校に入る実力を持っているから弱いわけじゃない………いや、中にはコネで入っているボンボンも居るが、少なくとも俺の立ち会った4人は剣術の基本はできていた。そうなると、ラプトは俺の意識外の隙を感知していたことになる。



 「おーい、何考え事してるの?」


 「いや、何でも無い。林でやる鍛錬はマナが濃いから、王都でやる鍛練とは、やっぱ違うなーって思ってた」


 「前にもロイは言ってたけどさ、そんなに違うの?」


 「あぁ、かなり違うな。家、林、森の順番で段々と濃くなってるから常人なら、ちょっとした    体調不良を引き起こすかもな。森に近づくにつれてマナが濃くなってるのは"精霊"が住んでいるからだろうな」


 精霊……森には精霊が住んでるって、ちっちゃな頃から言われてきたけど一度も遭遇したことは無い。

 「ラプトは森に行ったときに体調が悪くなったことは無いか?」


 「……俺はなんともないよ!マナの濃さは分かるけど森に行っても体調はいつも通りかな!あんまり影響を受けないのかも」


 「お前はあまり影響を受けないのか。まぁ、ラプトはこの周辺から出たことが無いから、マナ濃度の違いを認識できても、この環境に慣れてるから身体は何ともないのかもしれないな」


 「それよりさ!俺は一回でいいから精霊を見てみたいなー」


 「お前なーー母さんから聞いてるだろ。精霊は恥ずかしがり屋だから、森の奥深くで暮らしているって。それにな………精霊は常人には見えないし、マナや魔力への理解度をどれだけ深めても、知覚するのは難しいんだ」


 「見えないものだからこそ、一度でいいから見たいんだよね」


 「……見る方法はあるけど、生まれ持っての"祝福"を授かっていたり、特殊な眼とか持っていたら、話は別だが………俺もお前も持ってないからな」


 「やっぱり精霊を見るなんてことは不可能だよね……」


 こうも理論的に否定されると落ち込んでしまう。


 「まあ、いずれにしても座学や本で読んだ知識だから、実際は普通に視認出来るかもしれないぞ!最初に否定しておいて何だが、夢はあった方がいい!希望は捨てないことだ!」

 ロイは、あからさまに落ち込んでいる俺を見て元気づけようとしているようだった。


 これはチャンス!ロイには悪いけど、ここで提案させてもらう。

 「それよりさ、少し休憩したらハニーベリーの実を採りに行こうよ」


 「ハニベって林の奥の方じゃん」


 ロイは考える。林の奥つまりは山に入ることになる。父が同行しない状態で山に入ったことはない、なぜなら山には人が住んでいないから動物独自の生態系がそのまま存在している。目撃したことは無いが、魔物の類いが山のどこかに生息しているかもしれない。


 それに……林でさえもマナの濃度が高いのに山に入るとさらに濃度が高くなる。ラプトにとってはこの土地で生まれ育って"他"を知らないから違和感はそこまで無いんだろうが"精霊"の件もある。


 「ダメだ。大人の同行無しじゃ森へ入るのは危険だ」


 「う………ロイは来月で成人じゃん。ロイが付いてきてくれるならいいじゃん。」


 ラプトは言葉を振り絞り、ロイが来月で15歳になることを引き合いに出した。


 「それに、この前父さんと行ったときに正確な場所も把握してるから安全にいけるはず、誕生日にハニーベリーがどうしても食べたいんだよ……」


 これは嘘である。本当は3人に食べさせたいからだ。


 うーん…と言いロイは考える。ハニベの場所なら俺も知っている山の奥深くまで入るわけじゃないし…いったん思考した後に弟の顔を見る。真剣な眼差しでこちらの顔を見ていた。


 年の割にラプトは大人びてはいるが、こうなると自分の意見が通るまで言うことを聞かず、ご機嫌斜めな状態が続てしまう。そんな気持ちで誕生日の一日を過ごすのはかわいそうだ。


 「…………わかった!いったん家に帰って、昼飯を食べ終わった後なら付き合ってやってもいいぜ!」


 それにここで断ってもラプトは1人で勝手に森へ入りかねない。これは安全のため、と自分に言い聞かせる。


 「やったー!流石ロイ!わかってるね!!」

 ラプトは、さっきまでの不機嫌が嘘のように満面の笑みで喜んだ。


 時刻は真昼を告げていたので、家に戻り昼ご飯を食べることになった。

 作り置きだが、母さんのサンドイッチは美味しかった。


 昼ご飯のサンドイッチを食べ終わってから、ハニーベリーの実を採りに森へ向かった。


 「2カ月後には士官学校だけど緊張してる?」

 森への移動中にロイが士官学校へ見学に行った時の質問をした。


 「唐突になんだよ。この前下見にいったし緊張とかは無いかな」

 緊張してないのか……ロイを煽る機会なんてなかなか無いから、からかってやろうと思ったのに。


 「見学してわかったけど、今いる下級生で俺の相手になるやつは居ないな」


 「士官学校って案外…チョロい?」

 「騎士志望は単純な剣術や槍術みたいな戦闘技術と、後はある程度の一般的な知識を身につけたやつが入学するから、最初は気楽に行けばいいと思うぞ」


 「基本的に親が魔術師や特殊な家柄でも無い限りは、入学前から魔力についての鍛錬を行っているやつは居ないからな。下級生はまず魔力の基礎を学ぶからそこの差はかなり大きいってことだ。中級生と上級生には強い人が何人かいるぞ」


我が家の父は騎士だが魔術も扱えるため、幼少期の頃から俺とロイに剣術に加えて、魔力についての座学と鍛錬を行っている。ちなみに母からの座学は一般教養だ。


 「じゃあさ、見学したときに強そうな人は居た?」

 「この前行った時に遭遇した生徒で有名人だと…ロウィン、カーム、デイジーくらいかな、間近で見たけど3人の魔力ってやつが俺にも見えた気がした!」

 ロイは3人の身内であるかのように嬉しそうに語った。


 この3人のことは以前、ロイから聞いたことがある。

 カームとデイジーは士官学校に入る前から生まれつき"祝福"による能力に目覚めていたらしい。ロウィンは槍術の腕がかなり立つという噂だ。


 「知覚ならできても、視認できるくらいの魔力って…あり得ないでしょ」

 「魔力が見えたってのは冗談だよ」

 ロイはケラケラ笑いながら、茶化すように言った。


 「あとは気になるやつがいたな、強そうって訳じゃ無いけど、白髪に碧目の男で変わった見た目だから覚えてるんだが、すれ違った時に身体が凍るような不気味な感覚になったな」


 すれ違っただけで、身体が凍るような感覚?魔力に当てられたのだろうか?


 「その人とすれ違ったときって、周りに他の人は居た?先生とか生徒とか」

 「ああ居たよ。案内してくれてる先生と…すれ違った場所が廊下だから他にも生徒が居たな」


 どういうことだ……他にも人が居たにもかかわらずロイしか不気味な感覚に襲われなかったのだろうか?

 それともロイ自身の体調不良や立ちくらみか……?俺の知る限り、ロイは病気にかかったことが無い。


 昔の話だが、林の中で鍛錬をしていると土砂降りの雨が降ってきて、兄弟そろってびしょ濡れになり帰宅した。

 俺はその日のうちに風邪を引き3日間寝込んでしまっていたが、ロイは風邪を引くどころか豪雨の次の日には、小雨になったからと言う理由で、林の中に鍛錬をしに行こうとしたほどだ。流石に母が止めたが。

 「ふふっ」

 そのときの出来事を思い出したら、思わず小さく笑ってしまった。

 「急にどうしたんだよ」

 ロイが困惑した顔でこっちを見ていた。

 「何でも無いよ。ちょっと昔のことを思い出しただけ」

 「お前は年の割に大人びているけど、たまにおかしなところがあるよな」


 他愛も無い会話をしているとハニーベリーの実の近くまで来ていた。


 「たしか…右の丘を登るとハニーベリーの実があるはず」

 「ああそうだ、あの丘を越えたらハニベの木だ…正確な場所まで良く覚えていたな」

 言い出しっぺが正確な場所を把握していないわけがないだろう、とそう思ったがその反論はやめておく。


 「記憶力は良い方だからね。この前の歴史の座学の時に過去に存在したフレア地方の国名を全部覚えていたら母さんが将来は歴史の先生になるのがいいかもって言ってたね」


 「全部覚えてたのか!それはすごいな。でも将来は騎士になる方がいいと思うけどな。10歳でここまでの腕があれば、フレア地方で5本の指に入る剣術の使い手になれるぞ!」


 「5指に入るって……それはロイの方が可能性高いでしょ」


 そんな話をしながら小高い丘を登ると、まばらではあるがハニーベリーの実が木に実っていた。


 「さっさと採って帰るか」

 そう言うとロイは、木に登りハニーベリーの実を家から持ってきたカゴに入れていった。その様子を俺はただ見ていただけなので、手伝おうと思い自分も木に登ろうとした時、ロイが制止した。


 「お前は下で待っててくれ。木の上は足場が不安定で危ないからな」

 「うぅ……わかった」


 ロイがハニーベリーの実を採っているが、俺はそれを見ているだけということか…………暇だ。


 俺は、ロイがハニーベリーの実を採る様子をただ眺めていたが、あまりにも手持ち無沙汰なので、森の湖の方へ探索したくなってきた。もしかしたら精霊に会えるかもしれない!という期待もあって。


 だが、探索したい!とロイに言ったところで、反対されるのは目に見えている。なにかいい方法は無いか……あたりを見舞わすと、切り立った岩場が眼に入った。

 ハニーベリーの実を採取しているロイが居る木の上と、さっきの岩場の地点を交互に見比べる。

 これは………木の上からだと岩場の向こう側は死角になっている…!?

 一回、提案だけでもしてみるか……バレたらバレたで謝ろう。


 「ちょっと疲れたから、そこの岩場の陰で休んでてもいい?」

 「おう。もうちょいかかりそうだから、そこら辺で休んでていいぞ」

 「うん!まだまだ時間はあるから沢山採ってね!その方がみんないっぱい食べれるから」

 「おう!まかせろ!」


 ロイの返事を聞いてから、俺は岩場の方へ歩を進めた。

 岩場に隠れて少し時間を置いて、木の上から岩場の陰が死角になっていることを確認した後に、俺は気配を消し森の深部へと移動を始めた。

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