幸せな結婚
読んでいただきありがとうございます。
卒業パーティーは華やかに開催された。王女様のお相手である隣国の王太子が
参加をしたからである。
王女を見つめる目が大人の色気で溢れていて、空気が一瞬で薔薇色になった。
ロイヤルカップルの甘い雰囲気が会場全体に浸透していき、夢見る乙女達の視線が高貴な二人に集中した。
そのおかげかロイ達にはそんなに注目が集まらなかった。マリアはプリンセスラインの青いドレス、ロイは襟に金の刺繍が施された黒いタキシードだ。髪は上に纏めて後ろに流していた。
小さな声で恋人たちが囁き合っていた。
「一番君が綺麗だ、僕のマリア」
「ロイこそ素敵だわ」
甘い空気が周辺を漂っているが本人たちは気づいていない。
今夜は皆パートナーがいるのでロイに近づく猛者もいない。例の観察者にもパートナーがいるので下手に動くことができないでいる。悔しそうに睨みつけるだけだ。
セグはいつもの長い前髪を後ろに撫でつけ、グレーのタキシードを着こなしていた。ロイもマリアも一瞬誰かわからないくらいだった。セグはイケメンだった。
いつものなげやりな感じではなく凛として二人のもとに近づいてきた。
「やあ、ロイうまく行ったようで良かったな。おめでとう」
ニヤッとした顔がいつも通りだった。
「ああ、おかげさまで。後で詳しく話す」
「マリア、綺麗だよ。お姫様みたいだ。ドレスにロイの独占欲が出ていて凄く良いと思う」
会場のあちこちから「あんな素敵な殿方いたかしら?ブリゼール様と一緒におられるということはスチュワート様かしら?」「あんなに地味な方があの貴公子なの?もっと早く知り合いになりたかったわ」という声が聞こえてきた。
セグはいつものようにふっと苦笑いを浮かべた。
ロイヤルカップルがダンスを踊りだし周りではうっとり見つめる者ばかりだ。
そのダンスが終わると他の生徒もダンスを踊り始めた。ロイとマリアもダンスを踊ることにした。
「お姫様、僕と踊ってくださいますか?」蕩けたような瞳でロイが誘った。
「はい、喜んで」マリアが応え踊りだした。ロイはリードが上手だった。マリアが踊りやすいようにしてくれる。
「セグとだったら一曲位踊ってもいいよ」
「ロイは他の女性が行列を作るわね」
「妬いてくれるの?嬉しいな。君たちが踊っている間は果実水を飲んでいるよ」
「私も後で飲みたいわ」
「終わった頃に持っていくよ、お姫様」
どこかの積極的な令嬢がセグにダンスを申し込んでいた。渋々といった感じでセグが応じているのが見えた。
ロイはマリアと二曲踊った後でセグにダンスの相手を頼んだ。飲み物を取ってくると言って。
相手がマリアになってセグの肩の力が抜けたのがわかった。
「知らない娘に踊ってくれと言われたけど香水が臭かった。我慢するのが大変だったよ」
「私もきつい香水の人は苦手だわ。きちんとすると格好いいのねセグは」
「普段が酷いみたいじゃないか?」
「普段もいいけど更に格好いいわ」
「ロイの前で言っては駄目だよ」
「気をつけるわ」
友人二人は笑いあった。ロイの方を見ると沢山の令嬢には囲まれて身動きが取れなくなっていた。
「可哀想だから助けに行こう」苦笑を漏らしながらセグが言った。マリアの胸がもやもやした。
マリアが王宮で働き初めて二年が過ぎた。ロイとは二週間に一度はデートをしていた。たまにセグも加わることがある。成人を過ぎたのでお酒の飲めるレストランに行くことがあった。職場ではロイは婚約者だと認識されていた。
告白された時に貰った指輪はチェーンに通してネックレスにして肌見放さず着けている。ロイが側にいるような気がする。
王宮でも侯爵令息ロイ・ブリゼールの美貌は知れ渡っているので、妬みは度々受けていた。「貧乏令嬢のくせに身の程を知りなさい」「わたくしの方が綺麗なの、鏡を見たことがあるのかしら」等々挙げればきりがなかった。
実際に人目のない所で後ろから水を掛けられた事もある。急いで寮に帰り
新しい制服に着替え何もなかったように仕事に戻ることができたので良かった
と思っている。
ロイはロイで相変わらず女性の猛アタックを受けていた。わざと身体ごとよろめいて胸を擦り付けて来たり、しつこく怪しげな髪が入った手紙を送りつけてきたり、学院でのランチの時に同じテーブルで食べようとしたりされるのでいい加減辟易していた。
大体セグも一緒なので同じような被害を経験することになってしまい、申し訳ないと思うロイだった。
最終学年になり、そろそろマリアに再度婚約の申込みをしようと考えていた。
夜会にも出席する機会が増えるのでパートナーとしてマリアを連れていきたいのだ。父親にも婚約したい令嬢がいると伝えてある。いつものように冷静な態度だったのでどう思っているか分からなかった。きっと色々マリアの家を調べるのだろう。
母にも話をした。母はロイにも好きな娘ができたのねと感激したように喜んでくれた。女嫌いのまま独身を貫くかもしれないと心配していたそうだ。
母の杞憂の通りにならなくてほっとしているロイである。
再度のプロポーズは大きな湖の見える花畑にマリアを連れて行き、薄桃色の薔薇の花束とブルーのタンザナイトの指輪を用意した。跪きながら
「僕と結婚して下さい。貴女だけを一生愛したい」
と言ったロイの顔は緊張していた。
「はい、よろしくお願いします。長い間待ってもらってごめんなさい」
「君の気が済んだなら良かったよ、安心した。これからは侯爵夫人としての教育が始まるけど良いかな?」
「ロイのために頑張るわ、学ぶことは好きなの」
「ああ、マリア。やっと君を僕の婚約者だと公言出来る。幸せすぎて夢みたいだ」
そう言うとマリアをぎゅっと抱きしめ、頬に口づけをした。真っ赤になったマリアは自分からも腕をロイの背中に回して幸せを噛み締めた。
日を改めて侯爵家から正式な婚姻の申し入れが伯爵家に届けられ受けいれられた。
二人の結婚式はロイの卒業の半年後だった。超絶美形の蕩けそうな花婿と凛とした美しい花嫁は愛を誓い合い幸せオーラを撒き散らした。
そこに親友セグがいたのは言うまでも無い。
初夜の寝室では侍女に磨かれまくったマリアとシャワーを浴びたロイがソファーに腰をかけていた。マリアはこれでもかというほどの薄い寝巻きを着せられガウンを羽織っていた。ロイも白いシャツと黒のクラヴァットという砕けた格好である。シャツのボタンが二つほど外されているので色気が駄々洩れしていた。
仄暗い明かりの中で、気持ちを落ち着けるためのワインを二人で少し口にした。
ロイの指がマリアの頬を撫でた。
「すべすべで気持ちいい、君の全てに触れたい」
熱のこもったロイの問いかけに頷くことしか出来ないマリアだった。
寝巻きを取り払ったロイが言葉に詰まった。
「綺麗だ、僕の女神はとても美しいね」
そう言って全身を撫でられながら唇でも愛されたマリアは初めての夜を甘い痺れとともに過ごすことになった。
翌年には男の子が生まれロイは感動に咽び泣くことになった。その後も男の子、女の子に恵まれ二人は穏やかな日々を送ることになる。
色々な苦労はしても夫婦仲が良いので、どんなことでも手を取り合って乗り越えることが出来たのが、一番の幸せと言う他ない。
誤字脱字報告ありがとうございます。いつも感謝をしています。
これで最終回になります。ロイに特別な人ができ良かったなと思います。
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