終わりなき蛍への誓い
いやぁ、急に蛍を題材にした小説が書きたくなってねw
俺は、真っ暗な闇の中、草木を掻き分けていた。
ジーンジーンというお腹に響く音が、夜闇の中で静かな不安をあおる。
足に、重たくへばりつく泥水の濁った音を立てながら、ジャブジャブと歩む。
(前へ、前へ進まなければ...)
どこか義務的に、頭に響き続ける俺の声。
自分の意識とは、別に...足は、前へ...前へと進み続ける。
微かな痛みを足に感じた。
切れ味のいい草に、足を掠めたみたいだ。
(前へ、前へと進まなければ...)
雑草の苦味のありそうな匂いが鼻につく。
小さな羽虫が、耳の周りをうっとおしく纏まりつく。
「こっちへ、おいで〜」
目線を声のした方へと向ける。
しゃべかれた甲高い声が聞こえたのだが、ポワリと複数の蛍が飛んでいた。
「お兄様...」
幼さの残る可愛らしい声が、老婆の声がした方とは反対の方で聞こえた。
再び目線を動かすと、まだあどけなさの残る小さな顔が俺を見ていた。
そして、数秒とせずにポワリと小さな蛍となって、空へと浮かんでいく。
「どうして...どうして....」
雲に隠れていた月がぼんわりと光を照らし出して、すぐに消える。
「どうして...ですか....おにぃ....」
ゴクリッと、生唾を飲み込む。
腕に、無数の鳥肌が立ち上がり、ヒュッというか細い声が喉から聞こえた。
蛍は、舞い上がって、どこかへと飛び去る。
自然と、歩く速度が早まっていく。
動悸が激しい。
視界を覆う草を、ひたすらかき分ける。
そして──
足を止めた。
どこまでもひらけた湿地帯に、目を奪われる。
蛍の姿は、見えなくなったが...まだ、鳴き声が聞こえる。
「俺は、なんでこんなところに」
グチャグチャになった頭の中を、急速に冷やす。
地平線の果てから、鈴が鳴る。
金属の甲高い音が、一定の感覚を置いて、ゆっくりと俺の方へと進んでくる。
小さな蛍 一匹、脇から奇妙な円や、螺旋を描きながら俺を通り過ぎる。
(どうして)
(どうして)
(どうして)
尽きぬ疑問が、思念が...一匹の蛍から波を打って、押し寄せる。
手で、頭を抑える。目を閉じて、声を遮る。が、留まる気配がない。
足をつく。堪えきれなくなって、目を開く。地面に...なにものかの、下駄を捉えた。
ゆらゆらと揺れ動く下駄は、やがて蛍の死骸になり水の中へと沈んでいく。
ジーン...
また一匹の光を灯す小さな蛍が、目と鼻の先で力尽きて、水の中に力を失い落ちていく。
「はぁはぁ...はぁ」
ゆっくりと、頭を上げる。引っ掻き回した髪から手を離す。
蛍の死骸が、流れていき、水面から顔を出す大岩の前で止まる。
太い腕が、その死骸へと伸びる。
掴んだ蛍を、口の中へと放りこむ。
「.....ぁ.....」
岩の上で、体育座りをした薄禿げた頭と、冴えない顔に、ふんどしを付けた大男がボリボリッとその蛍を食す。
その男は、奇妙で 焦がしすぎた日焼け後のような茶色い小さな角が額から生えていた。
「バリバリッバリ」
「な、な....なん....」
口を開けたまま、声が出せなくなる。まるで、喉に太い鉄バイプを押し込められているかのような恐怖感を覚える。
「......ぁ....美味ィイイイ.....美味い。コレハ、オイシイナァ」
俺は、背後へ体を向けて、走りだそうとした。
得体の知れない恐怖を感じて、丈の長い草の中へと、逃げたくなったからだ。今すぐにでも、この体を隠さなければ...なにが、起こるか分からない。
しかし、足は思うように動かない。まとわりついた泥が、俺を地面に縫い付ける。
足がほつれて、沼の中へと顔を埋める。
「がハッ...ゲホッゲホッ」
いくらか泥を啜ってしまい、まとわりついた泥水を吐き出そうとする。
咄嗟に、後ろを振り返る。
「.........」
「.........」
目が合う。
どこか興味のなさそうな大きな真っ黒い瞳が、俺を射抜く。
「オマエ....」
「..........」
「アハハハ、アヒャヒャヒャヒャッ、オマエ、面白いナァ」
鬼は、立ち上がって、頭を抱えて笑う。
「アァ、アァ....笑った。笑った。久しぶりに笑ったワ」
「.......そ、そうでしたか。」
「アァ....アァ......デ?お前、何シテルンダ?ココデ」
笑っていた表情が、一気に真顔になる。
エイリアンのような先の長い指を、ぴちゃ、ぴちゃと跳ねさせる。
そんなことは、俺が聞きたい。
「俺は......」
「アァハッハッハッ、最高ダッ....最高ダッ!!実に、愉快ダッ!!アヒャヒャヒャヒャッ!!」
「な、なにを...う、ぁ....」
数百、数千という蛍が、背後の草から飛び上がって俺の頭を通過して鬼へと襲う。
何匹か、俺の体に体当たりをし、忙しなく羽をばたつかせる。
痛烈な痛み、痒みを感じ、咄嗟に水の中へと顔を埋める。
「っ....?!?!」
泥水の中に、黒い大量の死骸を見つける。
俺は....蛍の死骸の上を、歩いていたのか。
消えかけの灯火が、中で光り輝く。
走馬灯のように、なにかの記憶が蘇る。
「ひっ...お兄様!?!」
「......あぁ.......」
草と、木々が揺れる森の中、老婆の死体に跨った俺は、縄を手にゆっくりと首を傾ける。
「....っ!?!」
急いで、足を走らせて、妹を押し倒す。
「やめ...やめてっ.....やめ.....」
「.........」
縄を無理やりに押して、体が動かなくなるまで押し殺す。
反射的だった。
あそこまでは、計画的だったのに...どうして、お前が、こんなところにいるんだよ。
俺は、動かなくなった妹の姿を見て、我に返る。
「どうして...」
目元の涙を拭いて、生気の失った君の手を握る。
衝動的だった。
ここで、殺さなければ、間違いなくこの妹は、自首をしろと..言ってくるだろう。
「............」
違う。
「アァアァアアアア」
慟哭が、空をかける。どうして....どうして、俺は.....
大事な物を奪ったあの老婆に、復讐したかった。ただ...それだけだったのに。
その日、俺は、自殺した。
森には、掘り戻された不自然な土の上に、大きな石が置いてあった。
やけに顔が熱くなる。
湯気が立ち込め、ボコリボコリと沼地が沸騰し始める。
熱い。熱い。熱い....そんな危機感と同時に、なにか喪失と虚脱感に苛まれる。
「溶ケル、溶ケチマウ、体ガ、溶ケチマウ。イタイイタイィイイ」
鬼が叫び声を上げる。肩や、頭、腕に張り付いた蛍が、ムシャムシャと鬼を食らう。
(どうして)
(どうして)
(どうして)
鬼は、尖った歯を一杯に開いて、蛍に噛み付く。
「美味、熱イ、イタイ....イタイイタイ、イタイ.....」
ブクブクと、泡立つ泥水と、蛍に溶かされる鬼。
鬼へと、手を差し伸ばした。
悲鳴は、徐々に強くなっていく。
その度に、俺は焦りを感じていった。
「ま...まて....おい、待てよ。待ってくれ」
水をはね上げて、鬼の近くへと進む。
ダメだ。まだ...まだ、ダメだ。
「アァ......ケンイチィ.....」
鬼も、手を伸ばす。その手は、溶かされて..ドロドロになってきている。
「はぁ....はぁ.....」
俺も手を伸ばす。助ける。なんて考えじゃない。ただ、ただ、このままではいけないという、どこか使命感に駆られて...
「あと、ちょっと.....う、ぁ....」
直前で、足がもつれて、鬼の目の前で転ぶ。でも、俺は鬼の手を握っていた。
瞬間、グイッと引っ張られて───
「ヅガマエダ」
大きな口を、見る。
サメのような小刻みに尖った鋭い刃が、俺の腕を噛みちぎる。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「ウ、ウアハハハハ、アヒャヒャヒャヒャ!!」
ブチブチと、筋肉が切れる音が、耳に残る。それは、体から発せられた音。
「イタイ、イタイヨォ、ケンイチィ」
「は.....はあ......はあ.....アァ......」
ブクブクと泡立った沼の水が、かさが増えていく。足が、腰が...胴体が....俺の体を飲み込んでいく。
俺は....俺は......
「煮詰メテ、煮詰メテ、喰ラオウナ、喰ラッタタラ、美味イダロウナ」
鬼と、一緒に俺も溶けていく。ごめんなさい。ごめんなさい。もうしません。もうしません。
ジージージー.....
(あれ....蛍?なんでこんなところに蛍が?)
ジージージー.....
(前に、前に進まないと....なんか、やばいよね)
ジージージー.....
お前も、お前も、悔い改めよ。懺悔せよ。ここに来れて良かったな。お前は運がいい。
(あの、男の人は誰?)
光る蛍が魅せる闇、光る蛍が、映した闇を、溶かして、喰らって....消しましょう。
「アァ?ナンデ、オマエは、ここにいる?」
やっぱり、苦悶、葛藤、後悔の感情は、実にいいですね。
主人公サイドよりも、世界観重視の小説です。ホラゲみたいな恐怖を感じさせるようにするには、ちと語彙力が足りないでござんす。
一応、ハッピーエンドのつもりなんですよ?自分=鬼を、溶かして浄化させる。大事な儀式ですよ。
和風テイストで行きたいんですけど、うーむ...語彙力....川柳とか、勉強しようかなw
お兄様は、ないだろwお兄様はw
主人公の設定があまいって?そんなの、細かく書いたら、エグすぎて見られないだろw
まぁ、今は書いても世界観を壊しそうなので、書きませんでした。あまり...
大釜の刑みたいなのありましたよね。
そんな感じの終わり方ですねw蛍は、ここに来た人達を表してる。とすると、鬼に食われた蛍は、現実へと輪廻転生することでしょう。
鬼は、某アニメ風ですけど...んーむ...半端な狂いですね。もっと、狂いたい....
以上、お読み頂きありがとうございました。




