表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

遺骸

作者: 遊浪人

 道路の上に転がっているボロ雑巾のような物を視界に入れた瞬間、ピリッと肌がヒリついた。

 来た路を引き返したくなる衝動を、太ももを叩いて抑える。一回、二回、三回目でようやく震えが止まるのを感じ、目線を再び路上に戻す。

 黒ずんだ何かの上に、柔らかそうな茶色い毛が、風に吹かれている。

 もっと近づけばアリがたかっているのが見えたのだろうが、とりあえず近寄るのはよしておく。遠くからで問題はない。

 深呼吸し、カバンに手を突っ込み、固い感触を探る。布ゴム木プラスチック、ガサゴソ、ガサゴソと漁る。

 取り出したのは一台のカメラだ。

 両手にすっぽり収まるようなサイズ感のデジカメで、真っ黒なフォルムは、少し安っぽいけど、気に入っている。

 丸いボタンを押して電源をつけ、起動している間に、レンズを覆っていたキャップを外す。本体と紐で繋がっているため、パッと手を離せばぶら下がってくれる。

 暗い画面に光が灯る。ポチポチといじって感度や設定を調整していく。

 まだ使い始めたばかりでよくわからないが、なんとかそれっぽものを選んで、カメラを路上に向ける。

 その瞬間、何があったわけでもないのに、カメラがずしりと重たくなったような感覚に襲われた。さっきまでのお手軽感が嘘のようだ。画面に間接的に映る被写体がそれを思わせるのだろうか。


 お前に背負えるのか、お前が楽にしてくれるのか、


 道路に転がるものがそう言っているようにすら感じられた。

 僕は白い息を吐きながら考える。


 アレに何を言えば良いのだろうか。


 冷えたアスファルトの上で、美しかったであろう茶色い毛を血に塗れさせ、ボロ雑巾のように横たわっている。いつあのようになったのかも、僕には見当がつかない。


 僕だったら何も言われたくない。そのカメラをしまって家へ引き返してくれ、と懇願するかもしれない。でも僕はアレを撮りたい。撮って確かなデータとして保存しておきたい。手の中に収まる電子機器のメモリに焼き付けたい。アレを見つけたことを忘れたくない。

 自分のために相手が嫌がっていることをする。そんなときに言うべきことは一つしかない。


「ごめんなさい」


 震えた声に、乾いたシャッター音が続いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ