098:治安維持
【第三層群・1階ホール・六者会合】
「長大な街道が整備され、多数の移民が移動する訳だが、海賊対策はどうする。我が相撲でも賊の根絶までは至っておらぬ。特にこの周辺は長年荒廃しており、どの国もまともに統治出来ていない、三不管どころか『四不管』とでも言うべき地域だ。」
大膳亮入道が質問する。なお、「海賊」と言うが実態は山賊。船など持っていない。
「先日の筑波内薬佑みたいな大軍勢の侵攻に対してはダンジョンの機能を活用し撃退しますが、少人数の海賊が商人等に紛れて侵入した場合、ダンジョンの機能では一般の方に被害を出さずに撃退するのは困難です。このため街道に武士団を配置します。」
「まぁ普通のやり方だな。」
「現在武士団は1つですが、入間までの街道を優先し警備させます。この武士団の親族も呼び寄せ中ですし、最終的には各街道に1つか2つの武士団を知行付きで貼り付ける予定です。」
「あいつら、とことん土地に拘るからなぁ。逆に知行さえ安堵してやればあんまり文句は言わないが。」
愚痴る岡本主油正。
「一般のダンジョンモンスターは知性が無いので、こういう用途には使い物になりませんし、名前付きはあまり数が増やせませんから、武士団を召し抱えることになります。」
「犯罪への対処はどうなっておる。」
「生活水準の向上と道徳教育が犯罪抑止の王道、ということは踏まえた上で、それでも起きる犯罪に対しては、ダンジョン内は監視していますから犯罪は速やかに摘発できます。」
「監視できるのか。」
「そこはダンジョンの強みですね。残念ながら常時監視は手が回りませんが、犯罪が起きたときの状況を確認することが出来ます。」
「10両盗めば首が飛ぶ。と、脅しても盗人が絶えないのは、なかなか尻尾を掴めないからだからな。それは強い。」
岡本主油正が言うように、鑑識は無いので証拠はなかなか見つからない。
「法制度はまもなく完成します。正式な決定は議会開設後となりますから、当面は暫定運用となります。死刑は海賊は絞首、その他の殺人犯は下手人ですが、斬首には熟練が必要ですから、ギロチン、と言いまして、首を斬る道具を使います。使わずに済めば良いのですが、統計的に見てそうはいかないでしょうね。」
ギロチンを普及させたらレジオンドヌール勲章。なんてことは無い。
「最期に、神仏の扱いはどうする。」
「変に新機軸を導入しても一揆が起きますから、一般的な寺請制度を採用します。各村に概ね1つ、町には人口規模に応じた数の寺を用意し、住民の管理と基礎的な教育を任せます。」
「ふむ。」
「それぞれの村を作るとき、寺院用の土地も確保し、建物も寄進します。ですが、もし仏教様式の本堂等が必要でしたら村で建てて貰います。また、寺子屋等の運営に必要な費用はお布施として支給します。」
政教分離という概念自体が存在しないので、ダンジョンが寺院に土地と建物を提供し僧侶に米を支給しても問題無い。寺院に対し直接支援するため、不受不施派の問題は江戸時代どころでは無いが。
「僧侶が殺到しかねないな。」
「いずれ寺は何千も必要になりますから、そこは問題無いでしょう。ただ、宗派に関しては、住民の意向を優先しますが、あまり特定の宗派に偏らないよう配慮します。」




