097:移民受け入れ長期計画
【第三層群・1階ホール・六者会合】
「百万町歩開墾計画は、ダンジョン周辺に百万町の田畑を作る計画です。ただし、今はこのダンジョンの生産力は限られていますから食料が足りず人手を増やすことが出来ないため、すぐに作付けを増やす訳には行きません。1年分、いや半年分の食料を持参して戴ければ、かなりの移民は受け入れられるでしょうが。」
「武蔵としては、食料を産するダンジョンをいくつか狩り尽くしてでも、移民を急ぐ価値はあると考える。」
「別にダンジョンを狩り尽くさなくても、どこか他所の国から食料を買う訳には行かないのですか。」
「どこも食料に余裕は無いから、大量に買うと飢饉を引き起こしかねない。」
砂漠で生産力は乏しいため、食料は不足気味。
「人間は短期間なら修羅用の食料でも生きられますが、どうやら非常に不味いそうなので、最悪の場合、口に合わない食事で我慢できるなら……。」
一般のダンジョンモンスターは生物では無いため飲食不要だが、ダンジョンマスター及び名前付きモンスターは食料が必要。このためダンジョンはマスターとモンスターの食料を召喚出来る。
図書館都市ダンジョンでは、マスター用のコーヒー・ビール・チューハイなどと、紫蘇(修羅)用の液肥や各種植物用肥料を召喚可能。修羅は人間形態では光合成は出来ないため、修羅用の液肥は炭水化物やアミノ酸を含み短期間なら人間用にも使えるが、色は汚らしい緑色、味は夏場の藻が湧いたドブの水というシロモノ。
「餓死するよりはマシだが、さすがに民にそんな物を食べさせるのは酷い。総としては最大限食料を確保したい。」
岡本主油正は言う。
「獣人は種族により食べられる物が違いますが、その点はどうなりますか。」
高橋対馬守が言う。
「獣人は種類によっては修羅用の肥料では生きられない場合もあるので、残念ながら、そういう種類は餌が確保出来るまで受け入れ出来ません。」
「牛馬なら牧草ですが、猫には肉や魚……確かに供給が難しい物もありますね。狸は何でも食べますが、鶏頭か熟柿があれば嬉しいですね。」
「対馬守殿は鶏頭が好物なのですか。」
「大好きですね。増やしていただけたら、次にこちらに来る楽しみが出来ます。」
高橋対馬守はニワトリの頭、マリーは植物のケイトウという認識の齟齬が生じている。
「それで、餓鬼はやっぱりお断りなのか。」
入間代官、吉田西市佑。
「絶対、とまでは言いませんが。修羅は植物界、畜生は動物界ですが、餓鬼は鉱物界で本来生き物ではありませんから、『住民として』となると個人的には違和感を感じますね。さすがに家畜ですら無い『物言う道具』として扱う訳にもいきませんし。」
名前無しのダンジョンモンスターも生きてはいないが、定型的な行動しか出来ず知性は無いので道具扱いで問題無い。
「秩父あたりの餓鬼を排斥しろ、なんてことは?」
「もちろん、ダンジョン影響圏外に関してはわたしは一切関与しません。関係無い場所にまで首を突っ込むのは狂信者です。一方、無理に同じ場所で混ぜるのも上手く行かないでしょう。交易で来るのは問題ありませんが。」
「まとめると、修羅は問題無い、人間は食料持参かしばらく不味い飯で我慢、畜生は種類による、餓鬼は原則拒否。だな。」
大膳亮入道が言う。
「そうなりますね。天人は見たことありませんから何とも言えませんし、地獄もよく分かりませんから保留で良いでしょう。」
「地獄の住民と言っても牛頭馬頭は畜生だからなぁ。」
と、吉田西市佑。
「それで、次の問題は移民の割り当てだ。人が多すぎて困っているのは武蔵だけでは無い。畜生は人間ほど増えないから毛はまだましだろうが。」
生産力が乏しい砂漠なので、岡本主油正が言うように総も人口は過剰。
「毛も畑は少ないですから、民に食べさせるのは大変です。でも、百万町歩の田畑があれば食糧問題は一挙に解決します。」
「長期的には皆様、どれくらいの移民を出したいと思っていらっしゃいますか。」
「移住を強制する訳にも行かないし、希望者を募るなら、最初は様子見が大いにせよ、長期的にはおそらく我が武蔵が40万、総と毛が各20万、どうせ東からも来るから10万、相撲は遠いからあまり来ないと思われるから、その他と合わせて計100万人くらいかな。書記長、いや図書頭どの、将来も餓鬼は断るんだろう。」
「もちろんです。餓鬼と仲良くできる修羅も多いでしょうけど、わたしはそうではありませんから。仕事や観光で来るのまで拒否はしませんが。」
「そうなると、科や甲からはあまり来ないでしょうね。さすがに、毛の北にある越は遠すぎますし。」
高橋対馬守が続ける。
「移民の受け入れ時期はどうなる。」
「準備も必要でしょうし、まずは夏の間。秋の稲刈り・麦蒔きより前。となりますね。秋の初めには遅まき玉蜀黍や枝豆がある程度は収穫出来るはずです。秋に甘藷、夏の終わりに植える馬鈴薯は冬の初めに収穫、来年春に麦を収穫、春の終わりには春植えの馬鈴薯を収穫、夏には玉蜀黍。という順番に人数を増やしつつ作付けも増やします。」




