094:六者会合・ダンジョンのあり方
【第三層群・1階ホール】
使者達をあえてダンジョン中枢の第三層群に招き入れたマリー。「1階」といっても上空15kmの成層圏にある。もちろん固有法則でコアルーム等は部外者立入禁止なのでダンジョンを攻略される危険は無い。
「六者会合を始めます。図書館都市ダンジョン書記長、紫蘇図書頭。ダンジョンマスターに代わり、わたしが対外的な代表を務めています。」
ダンジョンマスターは安全の問題もあり表に出てこないため、名前付きモンスターなので最悪死んでも復活可能なマリーが対外的な代表者となる。ただ、マリーは無駄に能力が高いため、復活にはダンジョンエネルギーが大量に必要になる。もちろん官位は自称。
先行して行政機関は編成されつつあるが、議会は第四層群1階の映画館を議場とする予定だが選挙は行われておらず存在しない。裁判所も未成立。
「武蔵の国、入間代官、吉田西市佑。この足立の隣で代官をやっておる。」
「総の国、奏者、岡本主油正。上総介様の使いで参った。」
名前の通り脂ぎった男。
「毛の国、群馬郡司、高橋対馬守です。」
狸獣人。女物の服を着た大きいタヌキ。室内なので笠などは被らず、頭にちょこんと木の葉を載せている。
「拙僧は、相撲の茶坊主、大膳亮入道照頭。」
「小田城主、小田右京亮と申します。若輩にもかかわらず、こたびは末席に加えて戴き恐悦至極に存じます。」
「粟は来ていないな。」
と、岡本主油正。
「毛より距離は遠いですからこの塔も見えないでしょうから、すぐに使者を送ることは出来ないでしょう。」
狸獣人の高橋対馬守が言う。
「事前に予想していたのは相撲守殿くらいだろうな。あのオバサンを敵に回したらダメだ。粟は後でアワアワと粟おどりを踊ったところでもう遅い。」
安房のはずだが阿波の要素もある模様。
「今回は、今後のこのダンジョンのあり方を皆さんにお知らせすると共に、やり方についてご相談します。」
「ふむ。」
「まず、ダンジョンは人の感情によって維持・成長する。ということはご存じだと思います。また、自然洞窟型などを除きダンジョンは長期的な維持には人の生命が必要です。」
「生贄が必要と言う訳だな。確かヨハネの首と言ったか。」
と、入間代官。もちろん代官はヨハネが誰かは知らない。
「死に方は効率だけの問題で、ある程度の死者が出るなら寿命で何も問題ありません。ダンジョン影響圏内に冒険者相手の町でもあれば十分です。」
「あるなぁ。そういう町。たまに溢れだした怪物に滅ぼされたりするが。」
「ダンジョン影響圏ならそういうこともあるでしょうが、このダンジョンにはそういう怪物は居ません。それで、このダンジョンの産物は本ですから、あまりこの世界では需要がありません。紙なので燃料にはなりますが、それでは効率が良くはありません。」
「識字率低いですからね。特に毛の者はほとんどが自分の名前を書く程度です。」
毛の国の対馬守。
「幸い、このダンジョンは世界のコアから水と電力、まぁ火の代わりになるものを供給できますし、肥料の召喚が可能なので、わたしはダンジョン影響圏内に大規模な農場を開発し多くの人々を住まわせることで、ダンジョンを発展させることにしました。」
「水属性というのは砂漠では強いからな。塩水で無ければ。大昔の総の国主が銚子に乗って水属性ダンジョンから用水路引いて農地開発を試みたが塩水だったので大失敗したという記録がある。」
文章では無く会話なので、当然ながら誰も気付かず流された。
「それで、農場を作り人々に衣食住が満ち足りた感情豊かな生活をさせる。という事ですね。その、図書頭さまのお召し物も見たこと無い物ですし、そういうのも産物でしょうか。」
と、狸。この世界、当然ながらスーツは一般的では無い。
「大きさの問題もありますし、服に関しては特に販売は考えてはいません。ですが、是非に、とお望みでしたら用意することも可能でしょう。」
「なら、お土産に戴くとして、要はこのダンジョンは民に安寧をもたらすのが目的、ということね。」
「はい。つまり『物心共に健康で豊かな生活を実現する』。これがこのダンジョンの『あり方』という訳です。」
「確かに為政者として悪く無い心がけだが、難しいぞ。災害は起こる、海賊は湧く。」
岡本主油正が言う。
「どこの国も口では民のためと言うけど、実行できる者はほとんど居ない。」
見も蓋も無いことを言う大膳亮入道。
「そこは、ダンジョンの力を最大限活用するわけです。」




