091:脂頭の主油正
【南東門外、中山路、岸村】
騎馬1騎・徒歩3人の小集団が南東から岸村へやってきた。
「某は岸播磨介。そなたが総の使者殿か。」
「総の奏者、岡本主油正だ。上総介様の使者として、この先の、あのダンジョンに用がある。」
脂ぎった主油正は馬上からダンジョンを指さす。
「ああ、高いだろ。ほぼ5万尺あるとのことだ。」
「え~と、播磨介殿、ダンジョンの影響圏はどの当たりまでか分かるかな。」
「このあたりまでだな。いずれ20里か30里まで広げるという話だが。」
「既に影響圏であったか。それで無事ということは、やはり、あのダンジョンは別に海賊が支配し操作している訳では無いのか。」
「ああ、書記長殿は、とんでもない大悪党ではあるが、別に海賊では無いぞ。敵には容赦せず女子供を含め数千を焼き殺しても顔色一つ変えず、捕まえた敵は自ら頭を潰して廻るお方だが、我々配下の者には良くしてくれるし、隣の入間とも関係は良好だ。」
悪党は、悪事を働くという意味では無く、強いとか容赦ないといった古い言い方。また、マリーにとって餓鬼は人間から見た害虫みたいなもの。
「敵に回したくは無いな。」
「そうだろ。そこまでやるか。と徹底するのが書記長殿だ。でも、書記長殿は別に天下統一とかは考えておられぬ。」
そもそも、ダンジョン影響圏外を支配しても何一つ利点は無い。
「国府台は、このダンジョンが見える距離だから、攻めてくる危険性があるなら先に手を打たねばならぬが、うかつに攻め込んで筑波内薬佑殿みたいに無様に敗走しては無意味だからな。総は筑波にも使者を送っている。もちろん内薬佑殿が本当のことを言うとは限らないが、ある程度の状況は分かるだろう。」
「筑波本隊は残らず焼き殺された。」
「えっ。」
「野営地ごと巨大な落とし穴に落とされ、小荷駄隊も含め丸ごと焼かれた。先ほどの敵には容赦せず、というのは筑波の件だ。」
「……それは、今ここで穴に落とされる可能性もあるということか。」
「書記長殿もいきなり使者を攻撃したりはしないだろう。それに総を敵に回す利点も無い。」
「国守様は、あの塔の上からこちらの兵の配置を観察し、手薄な村を襲われる心配をしているが。」
「観察は出来るが、誰が村なんぞ襲うのか。だな。ダンジョンの者は一部の幹部以外ダンジョン影響圏を出ることは出来ない。我々岸団は野盗では無い。海賊なんぞ召し抱えるのは農民が嫌がる。」




