087:代官また来る
マリーは筑波内薬佑本隊撃退後、入植者第四陣(結局筑波別働隊だったが)のためにバケツ稲栽培キットを大量に入手したが、種籾の準備から田植えまでは約30日必要。準備が出来るまで図書館都市ダンジョンはインフラ整備を進めている。
【西門、上小町】
一度入間に戻った入間代官がまたやってきた。
「そろそろ、総と毛の使者がこちらに着くだろうから、こちらに来た。交渉の方針について、府中からの伝言も預かっている。」
「使者ですか。さすがに死者にしてしまったらダメですね。マスターなら間違えそうですが。」
ダンジョンマスターが司書と紫蘇を間違えたのが全ての始まり。チュートリアル通りに進めていれば大学図書館と蔵書1,000万冊がタダで手に入ったはず。ただし、チュートリアルで付いてくる総合図書館に全部は入らないので別途書庫を用意しないといけないという罠がある。
「使者は少人数で旗指物の上に笠を吊しているのが目印だ。偽の使者もあり得るから注意は必要だが。」
「総と毛は使者を送ってきますか。」
「異変を放置するようでは国主失格だから、まともな為政者なら必ず手を打つ。ただ、東は混乱しているから使者を送る判断は出来ないだろうし、相撲と粟からはこのダンジョンは見えないであろうから、使者は来ないだろう。」
「随員が忍者だったりするのでしょうね。」
「忍びは常に雇っている訳では無いから急ぐときは間に合わない。元から送り込んでいるか、別途商人か何かに化けて送り込むだろう。」
「入植者に化けた忍びは確実に居ますね。間違い無く代官どのが雇った者も。」
「居ないと言ったら閻魔様に舌を抜かれてしまうな。誰が忍びかは明かせないが。」
「こちらから忍びを送り込めないのが残念でなりません。普通のダンジョンモンスターはダンジョン影響圏を出られませんし、名前付きモンスターは忍びに使うには希少すぎます。」
「忍びも案外使い勝手は良くは無いぞ。家臣の手前、普段から召し抱えるなんて非常識なことをする訳にも行かないから、必要な時に北の方にある忍びの城から雇うことになる。風紀の乱れを気にしないなら、松山城みたいに『夜盗は前科・借財を帳消しにする』と言って、ごろつきと一緒に集める手もあるが。そして何より、完全に信用できる訳では無い。」
「そういう城があるのですね。」
【第四層群1階応接室】
「え~と、忍びの城と松山城ですか。名前から見て忍城と武蔵松山城相当とは思うのですが……。」
マリーは机の上に地図を広げる。多くの町や村が書き込まれているが大部分には名前が記されていない。
「書記長どの、この地図は正確なんだろ。」
「概ね。ですね。塔の頂上と途中から方位を計算していますが、空気の揺らぎにより多少の誤差が出ます。また、遠方では十分な垂直方向の距離が取れないため、どうしても精度は悪くなります。」
代官は食い入るように地図を見つめている。
「忍城がここ、ごく細かい砂に囲まれており難攻不落だ。松山城はこれだな。それにしても、この地図は凄い。」
「軍事機密になりますから、ここでの配布は考えていません。」
「先回りして断られてしまったな。」
「地図は、ダンジョン影響圏内と整備した街道から順次公開していく予定です。で、川越城は霞ヶ関の手前のこれでしょうか。」
「いかにも。」
「岩槻城は見当たりませんね。あるとしたら概ね足立の北東の方ですが。」
「聞いたこと無いな。足立付近は昔から無人の荒野だ。大昔には何かあったのかもしれないが。」
距離感としては、ざっくり5倍か10倍程度の模様。もちろん別に埼玉世界では無いので、あまり一致はしない。




