008:丘の上の燃料庫
【図書館ダンジョン】
焚き付け用の紙や紙製の薪を産出するダンジョンがある。と知り、近所の燃料商が手代を連れてやって来た。
ダンジョン内では何人かの冒険者達がせっせと新聞薪を作っている。ダンジョンなのでゴミは吸収されるから便利。
「せめて白紙の紙が出れば……」
と手代。
「紙商人が嘴を突っ込んでくるだけです。」
燃料商は一冊の本を手に取る。
「『始めに神は天と地を創造された。地には形なく不定形で、闇が……』天円地方といって、天が丸くて大地が四角いのは常識でしょう。不定形とかデタラメです。これでは書物としての価値はありませんね。わざわざ『商都梅田』の組合本部に報告を入れる必要は無いでしょう。」
「飛脚を走らせる方が高く付きますな。」
自由な冒険者には「冒険者ギルド」なんて存在しないが、商人は業種ごとに組合を持っている。重要な情報は本部に伝達されるが、どうでもよい情報をわざわざ伝えるのは無駄。
需要が多いのは、燃料にも料理にも使用できる菜種油や材木商との利権争いが絶えない木材だが、これらを産出するダンジョンは少ない。蝋燭に至ってはさらなる貴重品だ。それに対し、紙は燃料としては二級。逆に言えば、あまり他の商人に介入されない。という利点がある。
【コアルーム】
「マリーさん、見せた本が悪かったかな。一番の安物だし。」
「かといって、価値のある本をきちんと狙った人に届けるのは難しいですよ。字が読めない冒険者には燃料にしかなりませんから。」
「たかだか燃料では大して冒険者達は感動しないし、このダンジョンでは貴重な宝物は召喚出来ないし、逆に罠で苦しめるにも使える罠は無いし、冒険者を仕留める……本では冒険者は倒せない。」
「ダンジョンの本質と冒険者達の認識に齟齬がありますからね。」
「いっそ図書館やめて『燃料庫』に転換するとか。」
「ダンジョン大百科に、ダンジョンの『本質』が変わるという話はありません。名前、特に『二つ名』に影響されることはありますが、図書館が別の物になることは無いでしょう。
ただ、このダンジョンは、いきなり主系列モンスターをオリジナルモンスターに置き換えていますから、図書館には違いないとしても何か起きる可能性も無いとは言えません。大百科によると、オリジナルモンスターはダンジョンが成長して初めて設定可能なものです。」
「……そういえば、このダンジョンの名前って?」
「ありませんね。ついでにマスターも名前がありません。」
「我輩に名前がないことで何か不都合はあるのか?」
「大百科によると、ダンジョンマスターにネームドモンスターみたいな名前の効果はありませんね。そもそも、大抵のダンジョンマスターは本能で生きていて知性はありません。」
今明かされる衝撃の事実。
「なら名前は無しでヨシ!」
商都梅田は燃料商組合など複数の組合本部がある巨大ダンジョン都市で、第一層群(group)の地下部だけで2万人が居ると言われます。
各層群は多数の階からなり、阪奈電鉄・阪亀鉄道など世界によっては建設されなかった鉄道駅まで雑多に組み込まれている影響で迷宮化、地下深くの第二層群「名古屋」は比較的小規模とは言え、第三層群「池袋」は南口に北武(秩父鉄道とは無関係で東武と東武の間に路線網を持つ)・北口に南武(本拠地は川崎あたり)・もちろん西武と東武も東西が逆と紛らわしく、第四層群「新宿」はひたすら巨大で、第五層群「渋谷」は構造が凶悪すぎて下層の地下5階には東横キッズ(トー横ではない)まで出没するため誰も踏破しておらず、そのさらに下がどうなっているかは不明です。