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078:袋だたき

【第四層群1階応接室】


「社会を規定するのが、生産様式、つまり『下部構造が上部構造を規定する』なのか、家族制度、この地域は『内婚を許容する直系家族』ですが、それなのか、わたしには断定できませんから、家族と合わせて生産様式も考慮したいと思います。今回の場合、農地の保有と経営のやり方ですね。」

 唯物史観はこの場の誰にも理解不能。

「それこそ、岡田太郎左衛門殿には悪いですが、ダンジョンで大量に紫蘇(修羅)を召喚して田畑を耕す訳には行かないのです?」

 越前屋のもっともな疑問。

「越前屋さん、これは理由がありまして、そもそも、ダンジョンには人間でも修羅でも畜生でも、ダンジョンモンスターでは無い者の『感情』が必要なのです。そのためにはダンジョン影響圏に人が住むのが一番効率的で、人が生活するためには食糧が必要なので田畑を作る。と、順番が逆です。」

「ああ、商都梅田みたいなものですね。確か第一層群の地下だけで2万人居るとか、総人口は10万を軽く超えるとかなんとか。」

「10万人も居て、食糧はどうしているんでしょうか。」

「わたくしも知りません。ダンジョンの機能として召喚出来るのか、地下に田畑があるのか、どこかから輸入しているのか。」

「召喚は無いと思います。農場ダンジョンでも無い限り収支が合いそうにあいません。地下の田畑というのも日光の代わりが必要ですからこれまた採算が合わないと思います。輸入……もし外部から大量の食料を輸送しているなら、商人さんが知っているはずですよね。」

「ですね。」


「で、播磨介殿、この地方の農業政策の基本は本百姓、概ね自作農の保護育成でしたね。」

「いかにも。土地を持ち年貢を担う本百姓こそが体制の土台だ。土地の集中による度が過ぎた豪農は体制を脅かしかねないので分家を奨励、逆に農地が分散しすぎると年貢を負担できないため小規模農家の分家は抑制する。いわゆる、百姓は、生かさぬように、殺さぬように。だ。」

 騎士団長が言う。別に生活に余裕が無くなるまで年貢を搾り取れ。という意味では無い。知行地でそんなことをしたら一揆が起きて切腹になる。このダンジョンだと一揆が起きる前に農民がみんなダンジョン直轄地に逃げてしまう。なお、土地を持ち、年貢を納め、戦時には陣夫役を担うのが本百姓。このダンジョンでは最期の戦時動員は曖昧になっているが。

「さて、農業でも効率化を図るなら、例えば土地はダンジョンが保有・管理し、農業管理部門を作り大規模経営を行うのが最も効率的ではないかと思いますが……。」

「そいつは絶対ダメだ。おれ達百姓にとって自分の土地ってのは夢だからな。……あ、書記長様、すまない。」

 強い口調で異議を唱える岡田太郎左衛門。

「太郎左衛門さんは入植者第一陣ですが、今後の入植者もやはり土地に拘るでしょうか。」

「そりゃ、土地が無いとか一旗揚げたいとか、逆に年貢が重すぎるとか理由がなければ村を離れて移民はしない。だから、ここに来る農民はみんな自分の土地を欲しがるんじゃないか。」

 百姓は農村の住民という意味で、職人でも商人でも農村に住んでいれば百姓。町に住んでいれば町人。

「つまり、農地は分配しないとみんな納得しないということですか。」

拙者せっしゃ達は、そういう生き方しか知らないから、他のことをさせられても困る。書記長様には世話になっているから、拙者せっしゃは一揆など起こさぬが、今後来る者はどうだか。」

「あまりに斬新なやり方は無理に広めようとしても上手く行かないでしょう。わたくしを含め到底理解が追いつきませんから、良いか悪いか判断する事も出来ず否定されるのではないでしょうか。」

「胡麻の油と百姓は、絞れば絞るほどいずる物也。と言うように、百姓が頭を絞る状況を作れば収穫も増える。人というものは利己的だからな。自分の土地となれば工夫するわけだ。」

 全員が集団農場には反対。自作農にブルジョワに封建騎士と来れば社会主義に反対するのも当然だが。

「つまり、従来の仕組みをそのまま使い、ただ土地だけはダンジョン構造物なので管理の手間が少なくて済むから少し広めに配る。というのが最善でしょうか。」

「ついでに年貢率も低ければ言うことも無いが、それで他の村で本百姓が逃散したら迷惑か。」

「違いない。それに、他の村どころか、まずそれがしの知行地から人が居なくなってしまうから困る。ただ、書記長殿達が全ての仕事をする訳にも行かないから、役人には禄が必要だし、商人への支払いも必要だから、結局年貢は必要になるな。」

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