076:斬新な社会システムの新規デザイン
【マリーの私室】
「気候条件による違いを除いたら、基本システムは江戸時代の農村ですね。これ。」
幕府に相当するシステムがあるかは不明。基本的に代官が派遣されて統治するが、入間東隣の城など領主が治めている城もある。他にも、高麗や新座は代官所システムに組み込まれておらず民族・文化も異なるため事実上自治状態だが、これが藩相当なのか、単に三不管状態(前者は入間・多摩・秩父、後者は入間・多摩・豊島の境界にある)なのかは不明。
「あと、霞ヶ関も到底官庁街って規模では無く、代官同様に派遣されてきた官吏が2名、代官が雇った家来等が10人程度、地元の奉公人がいくらか。このダンジョンが名前付きモンスター5人とミントの分身8体で廻していますから、入間代官所の方が多忙ってことになりますね……。古凍の比企代官所はどうなのでしょう?」
【コアルーム】
「マスター、代官に百姓に冒険者からも話を聞いたのですが、入間に限らず、この付近の土地政策は、本百姓、つまり自作農の保護育成が基本で、小規模本百姓の分家抑制と、有力農民の領主化を抑止し分家を促すものです。要は江戸時代と同じですね。」
「つまり、農地の分散により労働生産性の向上は阻害され、将来の機械化にも向かない。という難点が出る訳か。中南米のような大土地所有制のプランテーションにして、機械が製造できたら農民を速やかに工場へ転職させた方が効率的だな。あるいは労農ロシアのソフホーズとか。」
「本百姓は、もっぱら農業で生活する経営規模10石程度の農家を中心に、農地は家庭菜園規模で農業以外の収入が中心の農家も、家屋敷だけ所有し農業はしていない商人や職人などもあります。一方、農地を持たない『水呑百姓』は、貧しい小作人や農業労働者も、店などを借りていて全く農業はしていない人も含みます。ただし、農本社会なので村の正規の構成員は原則として本百姓のみとなります。」
村の住民は職業に関係無く制度上は全部百姓。
「土地を持つ者のみが村の正規の構成メンバーと言う訳だな。」
「農村も町も原則はそうですね。江戸時代同様にけっこう例外はあると思われますが、そこまでは資料はありません。」
「なるほど。ともかく、社会制度自体が旧式で非効率ってことか。」
「そこで、生産性に優れたプランテーションを採用すると共に、いわゆる家族制度を廃止して人間の効率化を図るとどうなるか、検討してみたいと思います。」
「家族制度の廃止?」
「要は近代的な家畜の管理、養豚などと同じですね。この地域では家畜も前近代的な飼育が行われていますが。」
砂漠で野犬も居ないので鶏は放し飼い。他の家畜はほとんど居ない。
「人間牧場なだけに。」
「例えば、人間は繁殖力が高く増えすぎますから、種雄と繁殖雌を選定し適切な個体数を管理、残りの雄は全て去勢。とか。そもそも哺乳類で家族制度ってのが少数派で、有名な所では、ヒトと、化けるために真似をしたタヌキ、一部のキツネくらいのものです。例えばマスターには母親は居ても父親は居ませんよね。」
「さて、どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」
「ダンジョンマスターも、わたしみたいなダンジョンモンスター同様に最初から知識を持って生成されるのでそうなりますか。」
「こればっかりは人間に聞くしか無いか。」
「それで、一番肝心なのは、家族制度の廃止による生産性向上は、ダンジョンの獲得エネルギーにどう差が出るか。という所なんですよね。」
「それは分からないな。豚なら放牧より舎飼いの方が肥育が速いそうだが。」
「人間牧場は人間を肥育して出荷するわけでは無く、『物心共に健康で豊かな生活を実現する』ことで感情による獲得エネルギーの最大化が目的ですからね。厳密に言えばここは図書館なので、知識に関わる感情が一番効果的なのですが。」
「マウスやラットで実験する訳にも行かないからな。」
「実験動物ではダンジョンエネルギーを獲得できませんからね。ただの鼠と鼠獣人の線引きが厳密にどこなのか分かりませんが。単純に外見という訳でも無さそうですし。」