075:代官急行
【上小町】西城門
異世界の代官山に急行は停車しないが、入間代官は図書館都市ダンジョンに馬で急行した。
「ほう、総構えか。さては書記長どの、これで筑波内薬佑殿の軍勢を撃退なさったか。」
せいぜい弓矢や火縄銃しか無いこの地域、100尺もの城壁などそうそう無い。
「代官どの、数が多く強敵でした。最期はわたしが餓鬼の頭を割って廻ることに。」
城門前でマリーが出迎える。
「勿体ないの。餓鬼は手先が器用ゆえに、生け捕ったら鉱山ダンジョンで働かせたり武器を作らせるにも使える。」
「餓鬼なんて飼いたくありません。で、今日はどのようなご用件で。その馬を下さるとか?」
「要件も何も、いきなりこんな天梯が現れたのに確認すらしない代官なんぞ腹を切るべきだ。あと、馬は譲れない。」
仕事は多忙、商人達からの差し入れの菓子も底に小判など無い、悪事がバレたら切腹。実際には悪代官は少ない。人間のすることなので残念ながらゼロでは無いが。
「東の筑波から来た敵軍と、北西のおそらく毛の国から来た餓鬼の群れを一掃、そのダンジョンエネルギー、つまり力を残らず召喚につぎ込んで増設した結果です。ほとんど5万尺ありますから、100里向こうまで見ることが出来ます。」
「そんなに遠くまで見えるなら、物見櫓も要らないな。あと、餓鬼はおそらく毛ではなく、さらに遠くの科か甲か。甲は農業と言う面では貧しく風土病だらけの土地だが、山の産物が多く餓鬼が活躍している国だ。」
「いやな国ですね。あと、見張りに関しては無線機、という道具がありまして、入間からこのダンジョンと話が出来ます。整備や充電の問題はありますが、それを解決できたらお貸ししましょうか。」
「過ぎたる力は身を滅ぼす。と言うからな。軽々しく判断は出来ぬ。」
【西城門の上】
「ふむ、いよいよ本格的に水田を作ると。」
「時期的にはギリギリですし、量も期待できませんが、何とか間に合うでしょう。」
「それは楽しみだな。それで話というのは何だ。代官は決して権限は大きくないゆえに出来ることは限られておるが、相談には乗るぞ。」
「この地域の土地所有形態と家族制度について。ですね。そろそろ、このダンジョンでの土地扱いを決めなければなりませんから。」
マリーは代官にこの地域の社会制度のあらましを確認。
「準備ができ次第、本格的に入植者を募る。ということか。」
「そうなりますね。一度に来られても食糧が不足しますから、枝豆などが収穫出来る3ヶ月後に稲刈り用の移民を入れて、その後麦を植え付け、来年春の麦の収穫期に田植え用の移民を入れる。となります。人数は収穫状況に合わせて。もちろん、食糧持参なら予定の前倒しも可能ですが。」
「う~む、食糧持参と言っても持参させる余裕は無いな。さて、もしダンジョン影響圏を最大まで拡張した場合、どれくらいの食糧生産が可能になりそうかな。」
「長期的には、百万町歩開墾計画。ですね。あくまでも長期計画で、ソフホーズ……いえ集団農場にするか、口分田にするか、管理形態は決めていませんが。さすがに今は水が足りませんから、まず手堅く見て10万人分といったところでしょう。」
元正天皇の失敗はダンジョンが無い世界だったため。
「10万……それだけの潜在能力があるなら、むしろ食糧を産するダンジョンをいくつか攻略してしまって食糧を運び込む。というのも手なのかな。さすがに府中にお伺いを立てねばならぬが。とはいえ、この国にはろくなダンジョンが無い。石灰石とかコウモリとかを産するダンジョンは西の方にいくらでもあるが……。」
大抵はダンジョンでは無く、ただの鍾乳洞。
【宿屋】
「これはこれは、お代官様。」
「越前屋ではないか。今回はいかなる要件でここへ。」
「同志書記長に杉の苗木を持ってきました。遠い将来には木材も産するでしょう。なお、これは砂糖鉱山から採掘された金平糖でございます。お代官様のお気に召せば良いのですが。」
金平糖を採掘できる鉱山は当然のことながらダンジョンである。
「越前屋よ、おぬしも悪よのぉ。」
「いえいえ、お代官様ほどでは。」
「これも様式美と言うもの。代官所の皆が喜ぶであろう。さて、このダンジョン、もはや入間どころか府中、さらに隣国からも見える高さになっておる。ここからは府中の仕事だが、毛と総へ使いを送り、要らぬ争いが起きぬようにせねばならぬ。」
「足立代官が任命されるのでしょうか。」
「過ぎたる力は身を滅ぼす。筑波内薬佑殿の件を見たら分かるように、このダンジョンは府中が庇護しなくても自衛が可能だ。下手に代官など派遣したら、隣国の妬みに焼かれてしまう。」「
「毛や総との戦争など困ります。」
「明日、一度入間に戻る。じきに府中からの指示が届くはずだ。」