063:入植者第四陣
【ダンジョン北西】
中山街道は、毛の国からさらに遠く、山ばかりの科の国へ通じている。この道を2,000人を越えるみすぼらしい移民の群れがとぼとぼと歩いている。人間だけでなく多数の獣人、さらに砂漠用の外套を被っているため分かりづらいが餓鬼も多数いる。
【コアルーム】
「マスター、入植者第四陣が来る前に筑波軍を一層出来て良かったですね。今回は獣人も多いようですし、これは騎士団を一挙に騎兵化できます。」
馬が居るとは限らない。
「しかし、人口倍増だぞ。食糧は足りるのか。」
「幸い、ダンジョンエネルギーはいくらでもありますから、一時的に紫蘇(修羅)用の液肥で食いつなぎます。」
通常のダンジョンモンスターはダンジョンからエネルギーを供給されるため食事は不要だが、名前付きモンスターは食事が必要。このため、ダンジョンはマスターやモンスター用の食事を用意することができる。
修羅には光合成代わりの栄養補給が必要。だた人間に与えると長期的には一部のアミノ酸をはじめ、いろいろ足りなくなるため、あくまでも一時凌ぎ。
「あれ、人間にはとんでもなく不味いんだろ。」
色は汚らしい緑色、味は夏場の藻が湧いたドブの水。修羅は何を食べても泥水の味しかしないので問題無いが、イギリス人以外の人間には耐えがたい。
「あと、バケツ稲栽培キットを大量に召喚し、今日中に種まきを済ませておきます。」
【ダンジョン北西】
難民の群れの先頭では、いつものように口論が起こっている。
「畜生・人間・餓鬼の三族連合だ。」
犬獣人が言う。外観は二足歩行し服を着た犬。頭が犬なのに普通に話すし語尾に「ワン」と付かない。
「そこは人間・畜生・餓鬼でしょ。でも三族なんて山賊っぽいから却下ね。」
人間が反論する。山賊は不潔でみすぼらしくかっこ悪い。というイメージなので、賊達は船なんか無いのに海賊を名乗る。
「勝負を決するのは我ら獣人だ。統率力に優れ組織行動が得意な犬獣人、筋力に優れる熊獣人、突破力に優れる猪獣人、身軽で速度に優れる鹿獣人、城壁でも櫓でも苦にしない猿獣人。特に今回は鹿・猪・猿を主力とした強力編成だ。」
なお、牛馬獣人は居ない。牛飲馬食するため補給の問題が出る以前の話として、牛馬や犬の一部は人間に飼い慣らされていると見下されているため。別に奴隷でも何でも無く雇われているだけだが。
「要は犬以外は統率の取れない、家畜になる価値すら無いケダモノの群れってことね。毛の国も科の国も害獣が減って助かるでしょう。」
「数だけ多い年中発情期め。」
獣人の繁殖力が低いのは、34億種類と種類が多いが種類が違うと子供は出来ず、近縁種でも雑種は繁殖力が無くなるため。さらに同じ犬でも動物の犬と犬獣人では子供は出来ない。なお、餓鬼は性別が無く「繁殖」では増えない。
「ちょっと待った。見張りの鳥が来たから静かに!」
ペリカン程度の大きさのカラスが口喧嘩に割って入る。鳥は目が良いのでダンジョンから来たドローンを早くに発見できる。
「鈴木さん、こちらからも飛んでいって偵察できないの?」
「飛ぶのしんどいし、いや。そんなのトンビにでもやらせたら良いじゃないの。」
この世界、鳥獣人(動物学的には「獣」では無いが)は不遇。物理法則の制約で、飛行能力と人間並みの知能の両立は困難なのである。鳥は飛ぶために脳を効率化させており、例えばカラスは脳の重さ10gと人間の1%でもかなり頭が良いが、それでもある程度の知能を持たせ、それに合わせて体を大きくし、その大きさで飛行可能な幅3mもの翼を持つとなると、体重は15kg前後に達し、太った白鳥・ペリカン・コンドル並になってしまう。トビだとカラスより一回り大きくなり飛ぶのはギリギリ。
「居ないんだから仕方ないだろ。で、トンビを攻撃して追い返したのは誰だったかな。確か鈴木と言ったような。」
「うっさい犬っころ。毛を全部毟ってお布団にしようか。トンビとフクロウは存在自体が悪なんだから、同じ空気を吸うのも嫌よ。
烏獣人の鈴木にとって、トビとフクロウは生理的に我慢がならない。
【コアルーム】
「マスター、あまり仲が良くない混成移民団のようですが、今のところ、脱落者がいる様子はありません。とはいえ、かなり疲れているようです。ただ、餓鬼がいますから、彼らには帰って貰います。」
「ある程度近づいたら、ラージャ将軍とハルナさんを迎えに出そう。で、餓鬼は砂漠に追い返して大丈夫なのか?」
「餓鬼は絶食には強いですし、もし飢えても仮死状態になるだけで高純度のアルコールを飲ませれば元気になります。そのうち開拓を進めたときに掘り起こして隣町にでも捨ててくれば十分です。」




