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058:決戦前夜(3日目夕方)

【ダンジョン前の谷の東側】筑波陣営


「最悪だな。」

 筑波内薬佑つくばないやくのじょうは部下達に聞かれないようにつぶやく。

「殿、なにかございますか?」

「いや、あの城壁の攻略法を考えていただけだ。」

 高さ100尺ほどもある垂直の城壁が延びている。

「殿、版築はんちく、土を叩き固めて作った塀ですから、通常なら衝車つきくるまを使えば崩せますが、あれはどう考えてもダンジョンです。」

「予想より、かなり高いな。」

「城門を集中攻撃させたいのでしょう。櫓どころか扉も無く、明らかに弱点に見えますが、それこそが罠でしょう。」

「いかにも。城門前には近づくな。普通の城なら、ただの空城計くうじょうけいかもしれぬが、ダンジョンである以上、確実に罠がある。」

「それにしても、100尺もの梯子はありません。」

「ブフォブフォ、何のために小荷駄こにだを全部連れてきたと思っている。全軍、谷を越え、城門より南側、城壁からの弓矢が届かない距離に布陣。絶対に城門前には行くな。」

「全軍、ですか。」

「常識なら谷の手前に別途本陣を置く。だが敵は少数。野営は1箇所の方が良い。敵側に空の大八車を並べて盾とせよ。」

「殿、少数と分かるものですか。」

「せいぜい20か30だな。百姓をかき集めて多く見せているだけよ。水属性ゆえにダンジョンモンスターに亀でも居るかと思ったが、使い物にならぬゆえ召喚しておらぬか。」

 亀は水行の存在。

「殿、城門は罠として、どうやって城壁を越えるのです。」

「罠というものは、正体が分かれば対処のしようもある。詳しくは明日朝説明する。どこに間諜が居るかわからないからな。夜のうちに対策されたら困る。」

「罠の正体ですか。」

「落とし穴と埋火うずめびは確実にある。他の罠も候補はあるが、これは言わない方が良い。」

 内薬佑の作戦は、城門を攻めると思わせつつ、空いた大八車に土砂を積み、盾で弓矢を防ぎつつ積み上げていき、最後は梯子で強襲。敵軍がごく少ないからこそ可能な戦法。



【コアルーム】


「敵部隊、谷の対岸『南中野』には留まらず、谷の手前、城壁側の『天沼』に本陣を置く模様。」

 ミントが報告する。野営地は門の正面ではなく、その南側に街道を外して布陣。敵部隊は地面を杖で突きながら歩き回っている。

「あれは何をしているんだ。」

「落とし穴を警戒しているのでしょう。以前、ラージャが来る前ですが、海賊を穴に落として丸焼きにしたことがあります。その時は馬が居なかったので1人逃げられてしまいましたから、彼らも落とし穴の危険性は知っているのでしょう。」

「ダンジョンならでは。の方法だな。」

「もちろん、今も城門の虎口こぐちは丸ごと落とし穴になっています。空城の計(くうじょうのけい)を見破る程度の指揮官ならすぐに攻撃して来ますが、さすがにもう少し頭が良いようです。ついでに地雷原を作っても良かったのですが、片付けるのが面倒なのでやめました。わたしは言動の地雷なら平気で踏みますが、物理的な地雷を踏む趣味はありません。」

 修羅だけに修羅場は平気。

馬出し(うまだし)枡形ますがたは無いな。」

 城門前には、川越城では半円形、岩槻城では四角い馬出し(うまだし)がある。城門内側の枡形ますがたは江戸城にある。

「道を曲げると交通の妨げになりますし、ダンジョン影響圏が広がれば、敵がここまで来ることもめったになくなります。」

「めったに?」

「いくらわたしが修羅でも、ゼロと言い切るほど慢心は出来ません。」


 やがて、敵の野営地は完成。後続の小荷駄こにだ隊が収容されていく。

「マスターは早めに仮眠して下さい。敵が寝静まったら罠を仕掛けます。」

「マリーさん、後は任せた。」

 ダンジョンマスターは部屋に引き上げる。

「ラージャと騎士団は、夜明け前、薄明を持って総攻撃を仕掛けます。攻撃開始は4時10分。4時に配置に着いて下さい。」

 季節・子午線の設定・自転周期・緯度・地軸の傾きの影響で、空がいくらか明るくなるのがこの時刻。

「マリー、夜襲はしないので?」

「ラージャ、夜だと、もし敵の一部が逃げても追跡できません。こちらで夜目が利くのはハルナだけです。騎士団の皆さんは夜は見えませんから。」

 実は馬獣人もある程度は夜目が利く。

「ミントはコアルームで監視しつつ、自警団に指示してロケット弾の向きをセット。サピエン先生とアンは後方支援。負傷者が出たら対応お願いします。それでは解散します。解散。」



【コアルーム】


 大量の小荷駄こにだ隊は暗くなるまでぞろぞろと本陣に到着。野営地が寝静まったのはかなり夜遅く。

「さてと、また、いつもの落とし穴か。」

「一番確実ですからね。わたしは、地中にダンジョン構造物の壁を埋めておいて、一挙に持ち上げて囲い込む。という方法も考えてみましたが、ダンジョンエネルギーで壁を持ち上げるには時間が必要で、逃げられる危険性も出てくるのでやめました。」


「まず野営地の地面をダンジョン構造物に指定。」

「少しだけ余裕を持たせて指定して下さい。誰も逃げられないように。」


「柱部分を残し、地下の土砂を回収。」

「ダンジョンモンスターに穴を掘らせればエネルギーは節約できるのですが、巨大モグラも巨大アリも召喚出来ませんし、キツネ獣人も見つかりません。これは仕方ありません。」

「要は逆打ち(さかうち)工法だな。ダンジョン構造物は強度があるから、支柱も最小限で良いし、支保工も要らない。」

「大八車を踏み台にして逃げたり出来ないよう、深さは7~8mくらいは確保してください。」

「大仕事だな。回収した土はどうする?」

「あとで城壁の内側を埋めるのに使います。」


「で、空洞の底に本や新聞を敷き詰めて完成。だったな。」

「この規模の落とし穴の場合、新聞紙が落ちた地表面に埋まってしまい上手く引火しない危険があるので、ガソリンも流し込みたいのですが、今時図書館でガソリンなど使いませんからね。硝安肥料に油やアルミの粉をいくらか混ぜ込んで炎上しやすくします。」

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