057:スターリンのオルガン(3日目午後)
【第四層群】
第四層群1階では、ミントの分身8体がロケット弾を量産していた。元々ミントは服装に頓着しないため、分身は男装だったり女装だったり適当。
「ミント、順調です?」
「側近書記殿。将軍殿の提案で、ロケット弾の釣瓶打ちが可能な多連装ロケット砲を開発しました。架台に多数のロケット弾をセットし、完全に同時発射だと空中衝突するのでわずかに時間差で発射します。」
ミント本体が答える。
「なんとか今日中に目処が立ちそうね。」
「敵陣にこれを百発程度打ち込むことで陣形をめちゃくちゃにします。また、火災を起こし兵糧などを焼き払うことも出来ます。」
アメリカ国歌にあるように、ロケット弾は要塞に打ち込んでも効果は乏しいが、この世界の野戦陣地なら絶大な効果を発揮する。かもしれない。
【吉敷町】ダンジョン南東側・丘陵の麓
ダンジョン南東側山麓、中山街道、別名中山路方面は吉敷町と命名。図書館都市ダンジョンでは殺人事件は起きたことが無く、下原刑場は存在しない。
東が東町、北東が土手町、北西が大成町、西が上小町、南西は街道が無いため門も後回しで、南東が吉敷町と、埼玉県の地図から命名した5つの門がある。騎士団長達は「分かりやすくなった」と言っているが、ダンジョンマスターは覚える気すら無い。
「あ~、マリーさん、城壁が完成しましたね。」
生成した城壁の点検をしていたマリーにラージャが声を掛ける。
「なんとか間に合いました。そろそろ敵が東町に来る頃ですが、これでは諦めて帰るしか無いでしょう。」
「谷の対岸の『南中野』で野営するでしょうから、夜中に『スターリンのオルガン』を打ち込みましょう。」
「ラージャ、何のオルガンって?」
「スターリンです。」
「ああ、労農ロシアで大粛正をやらかした。亡命政府のアレクセイ皇帝が戦争好きだったなら労農ロシアが崩壊していたかも知れないという。」
「趣味は読書と園芸、身長もマリーと同程度、性格もよく似ていますが……。」
「わたしは粛清はしません。名前付きモンスターは過度に暗殺を恐れる必要は無いし、このダンジョンには元から粛清する程の人数は居ませんから。」
「異世界の本によると、世界大戦で敗北して民族ごとに解体されたアレマンが再統一したのか、ポーランドがアレマン諸国を征服したのか知りませんが、アレマンとロシアの間で二度目の世界大戦が起こった世界もあります。この時、労農ロシアが使用した多連装ロケット砲が『スターリンのオルガン』です。」
アレマンはポルトガル語のアレマーニャに由来しドイツのこと。ポルトガル語由来なのはイギリスやオランダと同様。マリー達の知っている世界では、世界大戦で敗北したアレマン・オーストリア・オスマンは民族ごとの小国に解体され、第二次世界大戦は起きていない。
「ただ、せっかく敵が一泊するのですから、その『スターリンのオルガン』で蹴散らしてしまうのも勿体ないんですよね。」
「戦力3,000人のうち、たった1%程度でもロケット弾が直撃したら、もう1層群くらい追加出来ますよ。小荷駄隊なんかは流れ弾当てても美味しくありませんが。」
「できれば3,000人、そっくりダンジョンエネルギーに転換できれば、ダンジョンも大きく成長しますし、将来的な脅威も減らせます。ついでに、今こちらに向かっている移民も無事に受け入れることができます。」
「この世界にハーグ陸戦条約はありませんが、さすがに戦争犯罪になりませんか。」
さすが法学部。その点はしっかり配慮する。
「え~と、あくまでも不幸なダンジョン災害です。はい。」
【コアルーム】
「ミント、北西の難民はどうなっています?」
「足が遅いようで、まだ時間はかかりそうです。あと、人間だけで無く獣人が多く含まれています。」
「馬!」
「そこまでは分かりません。」




