056:砂漠の行軍(3日目昼前)
【ダンジョン東方3里】
「暑いな。」
愚痴る傭兵。
「砂漠だから仕方ないだろ。昼は暑く夜は寒いのが砂漠だ。」
別の傭兵が答える。前方では、目的地のダンジョンが少しづつ大きくなっていた。
「しかし、こんなに大勢必要なのか。何千人居るんだよ。」
「海賊付きのダンジョン、というかダンジョン住みの海賊だからな。ダンジョン攻略だけなら冒険者どもの仕事だが、海賊にダンジョンで籠城されると、そこらの城より落とすのは大変だ。しかもダンジョンコアは、こういう塔型なら大抵は最上層、洞窟型なら最深部だから、結局全部掃討しないと終わらない。」
騎馬身分の武士が答える。馬がいないので徒歩だが。言うまでも無く、海賊とは言うが海は無いので山賊。
「厄介だな。」
「ま、だから殿も国中の武士を集めた上に、カネに糸目を付けず諸君達のような傭兵も冒険者も雇ったわけだ。小田殿や佐竹殿は本人は来ず、付き合い程度に親族や一門衆を派遣しただけだが。」
彼らには相場より高めの報酬が約束されている。その上、商人や遊女、さらには陰間とか女傭兵向けのホストみたいなのも同行しており、貰った前金で飲み食いしたり遊ぶことも出来る。もっとも、博打で身ぐるみ剥がされて無一文になり、支給の食料に依存する者も居たが。
「それほどまでに……。」
「筑波にとっては、乾坤一揆の大勝負だ。あのダンジョンは水属性で、ダンジョンからあふれ出すほど潤沢に水がある。にもかかわらず、海賊がそれを占拠し有効活用出来ない、ということは、それこそ天下にとって大問題だ。入間が海賊を討伐し開拓でもしているなら別だが、さっき言ったように『ダンジョンに住み着いた海賊』は難敵だから、地方代官程度では手に負えない。」
「それで砂漠を10日もかけて遠征ってのも、おサムライ様も大変だな。ま、俺達は集合場所から6日行程と言っても、集合場所に行くまでが大変だった。」
「傭兵諸君も、総に毛に遠く陸奥からもよく来てくれた。出来れば西からも別働隊を組織したかったが、入間はやる気ないし、別働隊が各個撃破でもされたら無意味だからな。それこそ比企の馬鹿息子どもみたいに。」
「何かやらかしたのか?」
「殿によると、海賊が居ると知らずに、冒険者でも無いのに少人数でダンジョン攻略に乗り出したあげく、ダンジョンに喰われたそうだ。」
「そりゃ自殺だな。ダンジョン攻略なんて冒険者で無ければ、それこそ数で力押しするしか無い。おっと失礼、おサムライ様にこんな口効いて。」
「よいよい。こんな時に仲違いなんかしていたら、勝てるものも勝てなくなる。」
「で、おサムライ様、そもそも、なんで筑波の殿様なんだ。」
「あのダンジョンは足立にあるから、本来なら、武蔵守様が動くものだが、入間の代官が全くやる気は無いから何も出来ていない。かといって、上総介様だと、隣国の総だから国際問題になる。その点、殿なら直接の隣国では無いから、大乱を引き起こす危険性は低い。という訳らしい。」
徳川幕府は無いので、武蔵守は使用される。
「らしい?」
「むろん、殿ご自身にも、水を押さえ、佐竹常陸介殿に対し優位に立つという目的はあるだろう。上野介殿、といっても名誉称号では無く、毛の国の国主の方だが、こちらは遠いので。」
国主と言っても制度として江戸時代の国持大名とは異なる。
【コアルーム】
「館長殿、側近書記殿、北西・中山街道より、推定2,000前後の難民がこちらへ向かっています。」
「この忙しい時に。しかも2,000なんて家が足りるのか。」
「家は、筑波軍を撃退してダンジョンの層群を増やせば良いのですが、マスター、これ、敵が北西に敗走したらぶつかりますね。」
「ダンジョン影響圏からは遠いし、簡易砦作って保護するとかも出来ないな。ドローンを飛ばして帰るように言うか。」
「いわゆる補給部隊は見当たりませんし、おそらく、水と食料は十分では無いでしょう。」
「見捨てるしか無いか。」
「あるいは、敵を完全に全滅させるか。です。」




