548:二位じゃダメなんですか
【第三層群屋上庭園】
冬が来て、展望台の世界樹もマリーの髪飾りも一面に花を付けている。マリーの一本結びにしている青を濃くした黒い髪も、末端部がいくらか薄く紫っぽい色になっているような気がするようなしないような。
「それで、岸家を播磨守、仙波家は……左馬允を左馬頭……では身終国主と紛らわしいですね。いっそ仙波だけに伊予守?」
「マリーさん、なぜにまた。」
「異世界だと仙波って埼玉県よりも四国のほうに多い。という程度ですね。まぁ、この辺は本人と相談の上決めようと思いますが。」
「位階を三位か四位にすると?」
「はい。今後のことを考えると。いっそ、二位じゃダメなんですか。……三位でも四位でも良いとは思いますが。」
「この世界では五位は国主から城主まで多用されるから、その上。というのは良いか。」
「異世界の江戸時代なら、一般大名や大身旗本は従五位下、有力大名は四位以上でしたが、この世界に幕府はありませんからね。」
「幕府なんて、『無ければ作る』とは一番縁遠いシロモノだな。」
「そもそも、わたしは源氏ではありませんからね。この世界であっても征夷大将軍にはなれません。」
「その辺も、この世界だと複雑だな。確か、例えば楠氏は人間と修羅と両方いるんだったな。」
「人間の楠氏は、元は橘氏ですが、こちらもミカン科の修羅と人間の両方が居ますね。修羅と人間の両方が居るのは、有名なところだと藤原氏。ただ、修羅でもマメ科以外で藤を名乗っている者が多々居ます。その辺は歴史的経緯がいろいろあるようです。まぁ、人間は犬猫よりも繁殖力が高く数が多いからどこにでも居る。ということで。」
人間の繁殖力は大型哺乳類最速でありマルサスによると25年で倍増するが、さすがに犬猫以上というのは誇張。
「修羅でも科が違っていた。とか時々あるな。」
「異世界だと遺伝子ですが、この世界だと、だいたい、ダンジョンの効果を得られない。あたりで露見しますね。わたしは直接は知りませんが、かつて『百合の国深谷』ダンジョンの禰宜達が百合科でないことが判明し、おびただしい血が流された挙げ句(これを血洗島と言う)ダンジョンが崩壊した事例がありますね。」
「ともかく、ダンジョンもどんどん人口が増えているから、相応の統治機構は必要だろうな。」
「強力な人口抑制は必須ですが、修羅や畜生も含め移民の流入も多いですからね。この世界の制度を基本にしつつ、一揆を起こされない程度に整備を進めていく必要がありますね。可能なら人間は去勢を義務化した方が良いのですが不可能でしょう。」
「そりゃ当然不可能だな。」
「現状、奨励がせいぜいでしょうね。去勢して、男は右耳、女は左耳の先端を切り取る。何もやらないよりマシですが……。」
「耳を切り取るのか。」
「切れ込みを入れるだけです。シートン動物記のウサギとか、ドリトル先生でオウムに耳を切手にされた民族とか。そういう感じですね。」
「マリーさん、さすがに実行不可能だと思うぞ。というか、それ、元々異世界では猫の繁殖抑制手段じゃないか。」




