547:自称官位に関する雑談
【第三層群10階応接室】
「それで、岸団長、『お願い』というのは何でしょうか。」
岸播磨介は図書館都市ダンジョンが最初に召し抱えた武士団の惣領。
「殿。殿の自称官位は図書頭で位階は五位。正確には従五位上で、武蔵守や下総守、あるいは身終国主(左馬頭)や奥州の鎮守将軍と同じです。ですが、このダンジョンは既に関八州で最大。地域の秩序維持のためにも、国司より上位の四位、あるいは三位を自称されてはいかがでしょうか。」
「なぜ唐突に?」
「もちろん、第一には関八州の安定のためですが、個人的には、岸家は守名乗りを許される大身旗本ですが、主君が五位だと同じ位階の播磨守を名乗るのは憚られます。」
「播磨守ねぇ……岸団長、岸団長が来た西の国は『針の国』ですね。キノコ修羅の多い。それで今の自称官位は『播磨』介ですよね。何か理由は知っていますか。」
「いや、そういう風習としか。そして針守と播磨守は別だ。針守は実際に針の国に君臨していないといけないが、播磨守なら国司を名乗る資格があるなら針の国以外に居ても良い。とされる。」
「粟の国も、三好家が阿波守で里見家が安房守でしたね。これも理由は分かりませんね。」
「昔からの伝統。と言うしかありません。官位は伝統が大切で、理由は分かりませんが、例えば関八州では上総守・上野守を名乗るのは禁忌です。」
「確かに、総国主は上総介どの、毛の国主は上野介どのですね。これ、たぶん官位自体が、何らかのダンジョンにより異世界から持ち込まれたのではないかと思いますが。」
「異世界ですか。」
「異世界では、『親王任国』と言い、常陸守、この世界だと東の国、あと上総守・上野守は名乗ったらいけないことになっています。詳しくは話せば長くなりますが。」
「なるほど。」
「それで……四位、治部卿や民部卿ですか。このダンジョンの実態とは合っていない気もしますが。位階だけ上げて『従四位下行図書頭』もあり得ますが。」
「四位で適切な官位が無いなら三位でも。それこそ、殿が坂東を横領しても、誰も表立っては反対しないと思われます。」
「三位ですか。豆科の小豆に自称大納言、正三位は居るようですが……。結局、侍従とか何とか名乗るとしても、わたしは朝廷の貴族ではありませんからね。」
「殿、好ましいのは関八州の地方官でしょう。」
「異世界の歴史では、節度使が三位か四位。当時の武蔵は東山道ですから、三位の東山道節度使。でも、東山道は関八州とは一致しませんね。」
「関八州、あるいは板東を統括する官位はなにか、鎮守将軍は奥州に居るか。鎮狄将軍は北の方だな。」
「……さすがに新皇はやり過ぎですね。左右大臣の二位じゃダメなんですか。ってダメに決まっていますし。」
「一位はもっとダメだろう。」
「確かにダメですが、修羅には種族ごと一位を名乗っている種族も居ますね。」
「つまり五位鷺みたいなものか。詐欺だな。鷺だけに。」
ただし、五位鷺は正規の官位。マリーの図書頭や岸播磨介の方が詐称。
「岸団長、話を元に戻しますが、前例では鎮東将軍が正四位下。一例しか無く実態としては奥州の鎮守将軍と同じ物ですが、こちらは従五位上。鎮夷将軍は前例がありません。あと、征夷大将軍は、わたしは源氏では無いので資格はありませんね。」
「あまり良いのは無いか。」
「ですね。一応、官位に関しては、新年から位階は三位か四位を自称する方向です。官位そのものは今後の検討課題ですね。」




