544:不破関まで任せる
【商都梅田・第一層群・箕有百貨店8階】
「『図書館都市』は、既に不破関までの測量を終わらせ、来年には線路を完成させる模様です。」
「えらく早いな。こっちの進捗状況はどないや?」
商人はソーライス(ソースをかけた白飯)を食べながら報告を受ける。
「大餓鬼までの測量は完成し、経路も概ね決まっています。着工は来年春の予定ですが、不破関以東となると電圧降下の問題があり、こちらの問題は解決方法が決まっていません。」
「技術的な問題っちゅうわけか。工業大学は官立やさかい召喚できへんやろな。」
1929年設立。異世界では後に理工系中心の帝国大学となり、さらに神戸商大と統合し阪神大学となる。この阪神大学、工学部が3つあるのが特徴。もちろん鳴尾こと阪神競馬場とは別物。
「大学は明らかに駅関連施設ではないので無理があると思われます。逆に駅そのものなら省線の駅でも召喚出来ます。」
「そんなら、どっかに大学ダンジョンがあらへんか探さなあかんな。」
「図書館ダンジョンならありますが。」
「知識だけあっても、現実の問題に応用する研究ができへんかったら意味があらへん。あるいは、最初から役に立つ商品そのものを入手してもええんやけど、百貨店いうても売ってない物は手に入らへん。」
商都梅田にはホームセンターやネット通販という概念は無い。
「ただ、『図書館都市』は、明らかにその手の問題は解決しています。彼らの技術を購入することは可能かもしれません。」
「いっそ、不破関まで作らせたらどうや。」
「え、不破関まで全部ですか。」
「電圧降下の問題があるのは事実やろ。」
「はい。理論上は送電電圧を上げれば、より長距離まで送電可能ですが、このダンジョンで入手可能な変圧器には限界があります。」
「そんなら、技術的制約を理由に全部押しつけたらええやろ。そんで、不破関で積み替えたらええ。」
「え、全部、ですか。」
「確かにその分売り上げは減るが、面倒事も減るやろ。元から、あんまり遠くへ電車を走らせるのは無理が多い。それに、もし技術を買うたって、東やのうて、西の黍と北の蛇を優先した方がええやろ。」
「確かに、身終ばかりか、黍と蛇も今の電車には遠すぎます。ただ、蛇には大蛇が居て何かと生贄を要求します。」
「そんな有害動物、酒を呑ませて首を刎ねた方がええかもな。」
もちろん、巨大すぎるとダンジョン外では自重で潰れるため、体格は大型ニシキヘビ程度。ただしダンジョンには八岐大蛇が居るという話も。
「普通は蛇獣人も人は食べません。『蛇は寸にして人を呑む』と言う物の、大抵は物理的に不可能というのもありますが。」
「そりゃ、伝統的に人喰いっちゅうのは最優先の討伐対象やからな。そないな畜生はあらかた駆除されとるやろ。」
異世界でも、虎に国民が喰われることを許容している大韓帝国を除き、概ね人喰い動物は駆逐される。




