541:大餓鬼
身終西部の都市「大餓鬼」は、人口の半分が餓鬼で、松修羅である国主の長田左馬頭とは今ひとつ上手く行っていない。国主の側近も胡瓜修羅の桐生六郎と雄鶏の河田次郎であり、餓鬼の代表はいない。
先年、この付近、安八郡の餓鬼達は大挙して出奔、行方不明となる。
【第三層群屋上庭園】
「それで、状況証拠から見て、三年半前に暴走した房総連合軍が呼び込んだ大量の餓鬼は、最初の発生源は大餓鬼の町ですね。まだ身終は異世界と極端には地名が異ならないので、位置関係は分かりやすいですが。」
「マリーさん、蝮や蛇原は文字と読みが合っていない気がするが。」
「蝮は『たじひ』、蛇は『かが』とも読みますから。鏡餅の由来は蛇という説もあります。わかりにくいのは井口ですね。日本史に詳しければすぐに分かりますが。」
「それで、エジプトのセト神を祀る教団が居るのは、よくある地名に引きずられる効果か。」
「おそらく。でも、こういう現象が起きないと、異世界日本の江戸時代に居ない動植物はなかなか入手できなくなります。もちろん、修羅または畜生が管理するダンジョンなら、外国産の動植物も入手出来ますね。このダンジョンだとシソ科の植物は、名前付き・名前有り一般の範囲内で召喚可能です。一般モンスターは生物学的には生きていませんから、ダンジョンの外では生育しませんが。」
「それで、マリーさん、身終国主に働きかけて、大餓鬼を包囲し餓鬼を討伐する、とか?」
「包囲は、良い方法ではありませんね。一番籠城に強いのが餓鬼で、他の種族に甚大な被害が出かねません。大餓鬼で反抗的なのは餓鬼だけですし、生贄用に長期保存が可能なのも餓鬼だけです。」
「修羅の球根とか種子は保存できないのか?」
「修羅の種から生えてくるのは、修羅になり得る植物であって修羅ではありません。十分なエネルギーを注ぐと修羅になることもある。というだけですね。種で容易に修羅が殖えるなら、この世界は修羅だらけになります。さすがに人間ほどの繁殖力はありません。」
「なら、どうやって餓鬼を捕まえるか。」
「酒で釣って捕獲して出荷。あたりでしょうか。でも、餓鬼がたくさん居ると言うことは、近隣に餓鬼を産する石切場でもありそうな気がします。異世界だと石灰岩くらいですが。」
「マリーさん、そちらも『餓鬼になり得る石材』ってだけでは?」
「はい。餓鬼だって人間ほどには殖えません。……そう考えると、石切場を抑えるのも、あまり効率は良く無さそうですね……。」
「いずれにせよ、自動車道の大餓鬼付近には城塞が必要か。」
「でも、ダンジョン影響圏外なのでダンジョンの機能は使用できませんね。いっそ、ここでクローンダンジョンを配置するという手もあり得ます。問題はクローンダンジョンの仕様について何も分かっていないこと、わたしに修羅の子供を育てることが可能かということです。」




