540:独断専行するミント
【身終の国・海豚池ダンジョン北】
線路の上を遠く読書村から「新幹線」に曳かれて「バラスト・ラダー軌道」が通り過ぎて行く。新幹線は何編成も用意されているが、別々の異世界の図書館から複製召喚された同じもの。
「板東から変態まで一直線か。これは凄いモー。」
海豚池ダンジョンから、美濃牛のカネヤマが様子を見に来た。牛の頭を持つ人間、つまり牛頭であり異世界の西欧で言うところのミノタウロス。ちなみに牛獣人は二足歩行する牛。下半身と耳・角が牛という馬脚の牛版も居るが、これはメソポタミアのクサリク。
「新幹線が完成すれば、読書村から不破関まで250里を冬でも4刻あれば移動出来るようになる。つまり、ここから図書館都市ダンジョンまで1日要らない。不破関から商都梅田の所要時間は知らないが。」
自慢げに説明するミント。新幹線なのは車体だけという寄せ集めの物体だが、鉄軌道はエネルギー効率が良いためけっこう速度は出る。ただし勾配には弱いため、丘を切り崩し、谷は埋めないといけない。
「その神官仙を使えば、誰でもどこまでも行けるモー?」
口頭なので意味の相違は誰も気付かない。
「料金は必要だし、当面は西は不破関、東は奥州の手前までしか行けない。」
「カネを取るのか……。腐敗神官だモー。」
不満顔のカネヤマ。
「海豚池ダンジョンでは金銭は不要なのか。」
「いや、買ったり食べたりするには金が必要だモー。」
「同様に、図書館都市を運営するためには人を雇わないといけないし、商品を買い付けないといけない。」
なお、武士の俸禄は米、岸家や仙波家などは知行だが、もちろん貨幣経済に組み込まれている。
【海豚池ダンジョン】
「彼らは電気を寄越せとか住民を牛肉や豚肉にしろとか無理難題は言っていないか。」
ウインドジャマーがミタケに問う。
「影響圏にも立ち入らず、そのすぐ北に真っ直ぐ東西に線路を作り、必要な物は全て本国から運んできているモー。」
「それは疑って悪いことをしたな。電気はダンジョンに悪影響が出かねないが、水くらいは分けてやっても良いか。」
「淡水は我々の餌に必要で、あまり余裕は無いし、塩水は彼らも扱いに困るモー。」
「うむ。入鹿池の水質はダンジョンの機能で維持されているが、大抵の修羅には向かないな。」
「牧草にも向かないモー。」
なお、入鹿池ダンジョンの住民は牛が多く、他に豚、鹿・猪。一方、江戸時代日本では希少だったり存在しないはずの羊・山羊・ラクダ・カバ・キリン・トナカイなども居る。




