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054:それぞれの夜(2日目夕方)

【コアルーム】


「敵軍は道中の街道で野営するようです。宿営地は作らず、道沿いに数キロに渡って滞在しています。」

「長蛇の陣にしても酷い陣形ですね。襲撃して下さいと言っているような。」

「マリー、実際、夜襲とか無理と分かっているからでしょう。こちらの拠点はこのダンジョンだけで、伏兵を置く余力もありませんし、仮に馬が十分居たとしても、夜襲するにも距離が遠すぎます。」

 ラージャが言うように、速歩はやあしでも駈歩かけあしでも、馬が一度に走る距離はせいぜい10~15km。20kmは少し遠い。もちろん休憩しながらならもっと長距離を移動できるが、そんなことをしていたら夜が明けてしまう。



【ダンジョン東方5里】筑波陣営


「ブフォブフォ、明日はいよいよダンジョンだな。楽しみだ。」

 豚……ではなく筑波内薬佑つくばないやくのじょう

「殿、夜襲の警戒はダンジョン方面のみ・最小限で構わないでしょうか。」

 配下の武将が訪ねる。

「砂漠で周囲に村も何も無い。ダンジョンから直接では、この距離で夜襲は出来まい。万が一の警戒は必要だが、外部からの攻撃に関しては、それ以上は要らない。」

「殿、外部から。ということは……。」

「傭兵や冒険者に忍びが紛れ込んでいないとも限らない。破壊工作をされないよう一定の警戒は怠るな。特に食料と水は死活問題だ。次に傭兵や冒険者に払う小判や銭。」


「到着は明日午後遅めになりますが、そのまま制圧しますか。」

「いや、ダンジョンは壊せないから、ダンジョン前に布陣。空いた大八車を盾代わりとして包囲だな。可能なら扉を破壊するが、水と畑を確保出来るなら、最悪海賊どもは当面放置でも構わない。」

「相手が城壁でも作っていた場合はどうします。」

「確かに、あれだけ派手に傭兵や冒険者を多数集めたからな。海賊といえども城壁くらい作っても不思議は無い。とはいえ守備隊は少ないはずだ。ろくな城壁も作れないはずだし、一晩休養を取り、一気に攻め落とす。」

「最悪の場合でも大丈夫ですな。」

「いや、城壁など最悪でも何でも無い。城壁より悪いのは、何らかの方法で海賊がダンジョンコアを操作している場合だ。」

「そんなことがあり得るので?」

「ダンジョンには本能しか無いと言っても餌付けは可能だからな。『商都梅田』って聞いたことがあるだろ。」

「商人達が住んでいるダンジョン……あ。」

「そういうことだ。ただ、それですら最悪では無い。」

「殿、まだ下があるんですか。」


「最悪の最悪、それはダンジョンが知性を持っており海賊と共闘している場合だ。」

「何ですそれ。ダンジョンが知性なんか持ったら、状況に合わせて怪物呼んだり、やりたい放題じゃ無いですか。」

「その上、どこぞのバカがダンジョンに餌を与えたからな。ダンジョンというものは人の命を喰らって成長する。冒険者どもはダンジョンに潜るが、冒険者が倒す怪物の方が多ければ、いずれダンジョンは攻略され姿を消し、倒される冒険者が多ければダンジョンは成長する。で、比企の馬鹿息子どもはダンジョンの餌になった訳だ。」

「ダンジョンの怪物相手に戦うのですか。」

「ブフォ、水属性だから、出てくる怪物は水行の生物である亀、あと水生木すいしょうもくなので木行の魚。亀はどんくさいし魚は砂漠では何も出来ない。怪物という点では一番ましだろう。木行の頂点は龍なんだが、さすがに龍までは居まい。もっとも、もし、この部隊が全滅したら龍が湧かないとは限らないが。」

「殿、他の属性という危険は無いのですか。」

「それは無い。水と紙が出る、さらに内部で火が使えないなら水属性だ。水だけなら金生水きんしょうすいだから金属性という可能性もあるが、それで紙は出ない。もし金属性だとダンジョン内で植物は育たないが、外なら可能なので畑の有無は判断材料にはならない。」

 図書館なので五行には準拠していないが、内薬佑はそんなことは知らない。


「水属性ダンジョンでは怪物は脅威にならないとしたら、何が危険なのです?」

「ダンジョンそのものよ。」

「え?」

「ブフォ、分からぬか。ダンジョンは壊せぬ。なら、ダンジョンで城壁を作ったら難攻不落だろうが。」

「……それは。」

「まだ、城壁なら梯子でも掛ければ済む。海賊の数は少ないしダンジョン怪物は脅威にならない。だが、まるごと碗や傘のような物で覆われていたら手も足も出ない。もちろん扉を壊せば済むが、当然海賊も扉は集中的に守る。そうなったら引き上げるしか無い。」

 ドーム都市なら攻略不能になる。ダンジョン構造物は強度が高いので、球場どころか町そのものをドーム化可能。もっとも、このダンジョンは図書館なので、大温室やドーム球場は召喚出来ない。

「殿、これだけ大規模に兵を起こして、何もせずに撤退ですか。」

「勝てぬのに固執するのはバカだけだ。将たるもの、いかなる場合も逃げることを考えておかねばならぬ。勝てないことすら知らずに突っ込んだ比企の息子どもはバカ以前だが。」

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