539:命令違反のはじまり
【第三層群屋上展望台・世界樹】
このダンジョンの世界樹の正体は巨大なローズマリー(ハーブ)であり、秋から春にかけて一面に薄い青紫の花が咲く。いくつかのダンジョンにある世界樹の中では小さいが、その高さは普通のローズマリーの10倍、幹の太さは10倍では効かない。そして、世界樹は幹内部の死んだ細胞がデータベースとなっているため、かなり多くの情報を記録できる。
「人海戦術で要害山を掘るとなると、労災の危険が出てきますね……。そもそも、この世界、安全基準自体存在しませんし、識字率も低いので安全教育にも限界があります。」
ダンジョンマスターや天武天皇(万葉集)みたいなのが「ヨシ!」と手順を省略すると事故率は跳ね上がる。
「土木分野の眷属で大学を出ているのは、佐藤と斎藤……でも眷属である以上、結局マスターの同族なんですよね。」
紫蘇修羅の召喚枠は名前付き8・名前有り一般16の24のまま増えておらず、残りは2枠。もちろんダンジョンモンスター以外の紫蘇修羅は居るが、彼らはこの世界の住民であり、異世界の知識・技能は持たない。
「枠が……歯医者を入手出来るなら切葉ラベンダーを召喚するのですが。」
学名が歯だから歯医者。程度の意味。
「とはいえ、当時、広範な分野の学部を揃える、例えば北海道帝大の図書館を入手するのは不可能でしたから、仕方のないことですね。」
【身終の国・海豚池ダンジョン近郊】
「こちらがわの鉄道、側近書記殿は仮設で後で撤去すると言っているが、ダンジョン影響圏外だし既成事実化してしまえば良い。こちらは順調。だが、商都梅田側は遅れているか。」
ミントが土木専門の浜田博士と打ち合わせ中。
「専門は海岸工学で鉄道は専門外ですが。仮設軌道はダンジョンで作った部材を並べるプレハブ工法なので、こちら側は順調です。さすがにアメリカ程の速度は無理でしたが。一方、商都梅田は技術的に昭和初期なので工事も相応で、あと電圧降下が解決出来ないようです。」
「昭和初期の技術では超伝導は無いし、高圧送電にも制約があるか。」
「側近書記殿が知ったら確実に反対しますが、ここは不破関まで1,000kmの線路を作ってしまえば良いでしょう。それでも来年秋には完成します。」
「その点は同意見だ。いっそ不破関と言わず商都梅田の影響圏の端、観音寺の町まで鉄道を作ってしまえば良い。」
「不破関までは電車があるので、それは後回しで良いでしょう。また、航続距離の長い自動車が無い現状では、道路は最低限とし、次は奥州を優先すべきです。」




