538:餓鬼の人権
【第三層群10階応接室】
続いてバジル修羅のラージャと会談。外見はインド系女性で、マリーより背が高く165cm。細マッチョな筋肉質。鮮やかな濃い緑の金属光沢(構造色)の腰近くまである長髪。目は黒(緑を濃くした黒)。肌は褐色。
「ラージャ、掘ってきた餓鬼を生贄として扱うことの法的な問題は大丈夫ですね。」
「この世界は幕府が存在せず統一した法制度が無いため、あくまでも一般的慣習ですが、どこかの人別帳に載っている者を理由無く捕まえるのは、相手領主との全面戦争に繋がります。領民を何かされて黙認しては領主の地位が危うくなります。」
「その辺は異世界の歴史的にも、わりと普通ですね。」
「ですが、発掘した餓鬼は、人別帳には載っていない無宿ですから、煮ようが焼こうがサド金山に送ろうが問題ありません……餓鬼からは金は得られませんね。で、マリー、その辺を検討せずに餓鬼堀りを進めていたのですか?」
「元から、このダンジョンでは餓鬼には人権は無いので、失念していました。」
「『人権』という概念自体、この世界にはありませんが。」
「江戸時代相当ですから、中世、あるいは近世ですね。社会進化論的には絶対王制成立以前の封建制なので中世ですが。」
異世界日本では市民革命が起きていないため近代にはなっていない。
【第三層群屋上庭園】
「マリーさん、結局、そこまで生贄用餓鬼の入手は優先度は高くないのでは。」
「はい。緊急というわけではありません。穴地獄ダンジョンのような配下ダンジョンは菌根が栄養を流すように、ダンジョンエネルギーが自然に流れますから、生贄が足りなくても存続は可能です。ただ、那須塩原ダンジョンはエネルギー的に従属ダンジョンになるには大規模すぎ、おそらく自然に流れるエネルギーでは維持出来ません。まぁ、年単位の猶予はあるでしょうし、仮に潰れてくれても、このダンジョンにとって致命的なことにはなりませんが。」
「理論的には、エネルギーの全てを外部に依存するダンジョンも存在しうるか。」
「比較的小規模のダンジョンなら十分可能でしょうね。植物にも完全に菌根菌からの栄養に依存しているものが居ます。」
「つまり、特に急ぐ必要は無いと。」
「はい。そこまで緊急に必要ではありません。ですが、那須塩原に限らず他のダンジョンとの取引に使用したり、何らかのダンジョンを急成長させる時に使用したり、いろいろ使い道はありますね。那須塩原はどうやら力士が最適だと思われますが。」
「生贄にしなくても、力士がダンジョンに住むだけで、ある程度は延命できるのでは?」
「延命は出来ても、結局生贄を捧げないことには、長期的にはダンジョンは維持出来ませんね。那須塩原は大きすぎますし冒険者への魅力が乏しすぎます。」
「塩しか出ないからなぁ。」
「この世界で価値がある産物があれば、多少の犠牲が出ようとも冒険者は集まりますね。そして、用意するためのダンジョンエネルギーが少なければ、ダンジョンにとって効率的というわけです。人間牧場以外の大型ダンジョンは、このタイプが多いですね。」
「このダンジョンでは難しいやり方だな。」
「本のために命をかける人は少ないですからね。」




