537:重機の優先配備
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「赤化と書くと無産主義にかぶれることで、懲役ですが(共和主義は死刑)、石化して化石になった餓鬼を復活させて生贄に使う。というのも、なかなか上手く行きそうにはありませんね。要害山を本格的に掘るとなると重機が必要ですが、このダンジョンでは量産は出来ず手作業での生産ですから数は少なく、こちらに廻すと商都梅田への道路建設が遅れます。」
さすがに異世界の東京~大阪のように、片側5車線の自動車道が複数。なんて需要は無いが、最低限の輸送手段は必要。
「工事用軌道さえ作ってしまえば、当座の輸送には……それでは社会が19世紀で止まってしまいますね。とはいえ、道路を作っても走らせる車がありません。」
読書村から不破関まで1,000km。そんな長距離を走行可能な自動車は図書館都市ダンジョンには無い。そもそも異世界で陸上輸送の根幹を成す大型トレーラーは入手出来ない。
【第三層群10階応接室】
マリーは今後の方針を技術部門の統括をしているミントと打ち合わせる。ミントは中性的な外見で身長はマリーより少し低い158cm。短い髪は明るい緑の金属光沢(構造色)の緑髪で、目も鮮やかな明るい緑。肌は淡褐色。
「側近書記殿、重機は優先的に商都梅田、次いで奥州への工事用軌道の建設に廻すべき。大型トラックが無い以上、道路は後回しで良い。」
ミントは「新幹線」優先整備を主張。もっとも、図書館にある車体に電気自動車のモーターを組み込んだシロモノ。なお、マリーがよく知る異世界では、弾丸列車は計画すらされていない。
「確かに、陸では大型トレーラー、空では飛行機が無く、海運に至っては海自体が無い上に運河も地形的に難しいですね。でも、いくら技術的制約があると言っても、異世界では捨てられた技術に固執するのは良くないと思いますが。」
「この世界は異世界とは地理的条件も技術的制約も全く異なるため、異なる技術を使用するのは妥当です。」
「歴史的経緯は仕方ありません。異世界の東京で地下鉄を作ったとき、自動運転車はSFの産物でした。でも、既に正解を知っているのに間違ったインフラを導入するのは認められません。あくまでも工事用軌道は仮設で、道路完成後は撤去します。」
「手持ちの3tや3.5tの電気トラックでは輸送力が制約され、さらに途中での充電が必要になり時間もかかりますが。」
「さすがに道路が完成する頃には大型トレーラーも入手出来るでしょう。仮設軌道は基本的にはダンジョンの機能で作った部材を並べるだけですが、道路は巨大なコンクリート構造物を現地で作らないといけません。仮設軌道を利用して何工区も同時建設すると言っても年単位の時間が必要です。」
「側近書記殿、ともかく、重機は商都梅田などへの工事へ廻す。という方針で行きます。」
「仕方ありませんね。」




