536:餓鬼堀り
【甲・要害山】
この世界、要害山という山は各地にある。いずれも古い時代に城塞が築かれた山であるが、甲の要害山は、ただの古城では無く「餓鬼は石垣、餓鬼は城」と、仮死状態の餓鬼で城を築くという発想によるもの。餓鬼は何年も仮死状態で保存出来るため、常時「喰わせる」必要が無い。
しかし、この画期的なアイデア、活動中の餓鬼が酒を残らず呑んでしまい、いざという時に城の餓鬼を蘇生させる酒が無く、無様な敗北に終わった。
「左衛門太郎、これに酒をかけたら餓鬼が復活するのか?」
冒険者、右馬太夫の足元には、元は餓鬼であった石の破片が散乱している。多くは摩耗し、どの個体の物かも不明。
「いや、さすがに無理だろう。餓鬼と言えども首を斬ったら死ぬ。これでは首を繋ぎ合わせられない以上、既に死んでいるはずだ。」
「墓石だって何百年も経つとボロボロだし、餓鬼も一緒か。」
「冒険者には墓は無いが。」
兵衞次郎が続ける。
「兵衞次郎、縁起でもないことを言うな。でも、つまりこれは餓鬼の骨に過ぎないってことか。骨では仕方ない。要害山の餓鬼は全部ダメだろうか。」
「右馬太夫、地表のは全部使い物にならないと思う。ただ、砂に埋まっていれば、もしかしたらまだ使える餓鬼があるかもしれない。もっとも、餓鬼で良いのなら、古い餓鬼を掘らずとも、石から生えてくる餓鬼を捕まえる方が早いと思う。」
「左衛門太郎、餓鬼は石から生えると聞いたことはあるが。」
「餓鬼は子作りはせず、天地の『気』を浴びた石から生じるが、最初は子餓鬼だ。これを難しい言葉で『自然発生』と言う。一人前の餓鬼になるには何年を酒を与えないといけない。」
左衛門太郎が解説する。
「すると、蛆虫みたいなものか。」
むしろ孫悟空が近い。蛆虫は、この世界で知られていないだけで蠅から生じる。
【第三層群屋上庭園】
「マスター、やはり、餓鬼は珪素生物では無いので、石より風化しやすいのでしょうか。」
「砂漠だからな。」
「確かに、昼は酷暑、夜は極寒、たまに雨が降れば夜に凍り付く。それでもエジプトのピラミッドは何千年も形を保っていますが。」
「マリーさん、大々的に冒険者を募集して本格的な発掘作業を始めるか、あるいは他の方法を考えるか。」
「要害山に埋まっている餓鬼が何体で、使えるのが何割か。が問題ですよね。さすがに小塚原刑場ダンジョンの亡者みたいに何十万ということは無いでしょうが。」
「あれはダンジョンが複数の異世界から集めてきたわけで、この世界単独の数では無いだろう。」
「確かに、このダンジョンも、その気になれば『国富論』や『資本論』の初版本を何冊でも複製召喚出来ますが……。ダンジョンエネルギー的にあまりにも無駄ですけどね。」
国または自治体の公共図書館・大学図書館等にある蔵書なら何だって複製召喚出来る。民間にしか無い本は今は入手出来ない。




