532:堕落した府中勤番士
【甲の国、府中】
「村山党一族、仙波掃部助の子、仙波左馬允次郎。図書頭様の使いで参った。こちらは、図書頭様の上士で稲吉カスミ。」
馬脚のカスミに背負われて甲府中へ来た仙波次郎が挨拶する。
「あ~、東で偉そうに官位を自称している。」
あまり素行の良くない府中勤番士。焚き火に当たりながら芋を焼いている。
「勤番支配どのに書状を届けて欲しい。」
「いや~、取り次いでも良いけど、出す物を出して貰わないと、な。小判とか。」
「小判までは持ち歩かぬ。南2里余りにダンジョンの影響圏があるので、路銀は要らぬ距離だ。」
「ちっ。帰れ帰れ。貧乏旗本に用は無い。」
知行は大身旗本並なのであるが。
「書状を受け取って貰わねば困る。」
「ああ、受け取れば良いんだろ。受け取ったぞ。」
勤番士は書状を受け取ると焚き火に放り込んだ。
「あ!」
【第一層群事務所・旧コアルーム】
「現場の独断で書状を焼却ですか。不良勤番士の件で勤番支配へ厳重な抗議が必要ですね。」
「殿、抗議をしても、また独断で書状を焼くかもしれません。府中の兵は300は居ないと思われますので、我が一族の助力を得て門前に布陣、不良勤番士を1人か2人、斬ってしまえば、書状も届くでしょう。」
と、仙波左馬允次郎。
「それで、もし勤番士のみならず勤番支配もまでも物わかりが悪いなら、城攻めが必要になってしまいます。必要のない戦いで武士を犬死にさせる無駄は、このダンジョンには許されません。このため、頭の弱い勤番士にも事の重大さが分かるように、まず府中……たくさんあるので紛らわしいですね。その府中の目の前に城でも造って圧力をかけましょう。ダンジョン影響圏は確か南2里ですね。城攻めには少し遠い気はしますが……本陣と考えれば良いでしょう。」
「城ですか。当然ダンジョンの機能を使われるので?」
「もちろん。ダンジョン構造物を多用した城を一夜にして造ります。2里では火箭で城下ごと焼き払うには遠すぎますが、狂犬隊と火豚隊を派遣し、相手を威圧して開戦を躊躇させるには十分でしょう。ただ、ダンジョン構造物の城とは言え、国府の御坂と府中城の間に位置する重要な場所ですから、その後も管理が必要となります。城代として親戚の誰かを推挙してください。」
「は。」




