531:そもそも、甲の地理とは?
【第一層群事務所・旧コアルーム】
マリーは甲の地図を投影する。
「不正確ですが、これが甲の概略地図です。以前は、北西の科、北東の武蔵、南の鳥兜との国境まで拡がっていましたが、今は武蔵の大規模人間牧場の破綻と甲中央に位置する瘴気平原の影響で衰退し、機能している街道は相撲の国としか繋がっていません。」
「南は駿河ではなくスルクなんだな。時々地名が異世界とは異なるようだ。」
「縄文時代の言葉でトリカブトの根ですね。異世界の富士山麓は縄文時代にはトリカブトの産地として有名で、駿河の語源もトリカブトです。」
ただし、おそらく縄文時代には部族ごとに数百の異なる言語があり、中には個々の単語が全く異なる物もあったと思われる。
「それで、この真ん中にあるダンジョンが、問題の瘴気平原か。」
「はい。概ね砂漠の甲では珍しく比較的水が多い地域で、いくつもの池があります。周辺の村では、この水を汲み出して使っていますし地下水の水源にもなっていますが、おそらく、この水が汚染されていると思われます。」
「甲の住民は知っているんだろうか。」
「原因は分かっていなさそうですね。瘴気、つまり悪い何かが原因。という程度は知られていますが、水なのか土なのか空気なのかは分からないようです。もっとも、寄生虫ではないか。というのも異世界からの類推ですから、正しいとは限りません。」
「魔法や呪術では無い。ということくらいか。確実なのは。」
「厳密には『ほぼ確実に無い』くらいですね。異世界でも魔法が物理法則上『存在しない』証明はありません。これだけ調査して見つからないから、無いと考えてほぼ間違い無い。ということですね。」
「それで、国府が瘴気平原の東、府中城は北東か。」
「はい。そして、マスター、目的の『要害山』は、甲の国、府中の北にあります。この世界では甲国府は八代郡御坂にあり、府中は府中勤番士と呼ばれる武士が管理しています。」
「府中というのはそこら中にあるが、国府では無いのは珍しいな。」
「この世界でも何らかの歴史的経緯があるのでしょうね。」
「武蔵では府中が国府だな。」
「武士団が多いため、馬市で有名ですね。この世界では気候の影響で馬はかなり高くなりますが。なお、異世界でも武蔵府中、馬場大門のケヤキ並木は古代から江戸時代までの競馬場ですね。当時馬券があったかは不明ですが。」
「日本だから、あっても不思議は無いが。」
「建国過程が特殊なオーストラリアを除けば、世界有数の賭博好き民族ですからね。少なくともこの世界では、元から存在したのか異世界から持ち込まれたのかは分かりませんが、競馬賭博は存在し、おかげで中山競馬場ダンジョンの再生は上手く進んでいます。」
「人気なのは犬追物だが、金銭的な費用がかかりすぎる。」
「騎馬または馬獣人・馬脚が12名チーム3つ、は、ともかく、犬獣人が150人ですからね。」
馬獣人は直立二足歩行する馬、馬脚は下半身が馬で、いずれも馬並の速度で走行可能。馬頭は体が人なので走るのは速くは無い。
「マリーさん、その要害山というのが目的地と。」
「はい。餓鬼を積み上げた城があった場所です。おそらく大量の餓鬼が眠っていると思われます。」




