528:餓鬼を発掘して使う案
【第三層群屋上庭園】
「マスター、力士だ何だと難しいことを考えずに、単純に餓鬼を大量に奴隷狩りした方が早いかもしれませんね。」
「確かに、餓鬼は仮死状態になるから保存も効く。貯めておいて、定期的に那須塩原へ売ることも出来るな。」
「はい。昔、『餓鬼は石垣・餓鬼は城』と言い、仮死状態の餓鬼で城を築き、戦争で必要になったら酒を与える。という戦術もありました。指揮官層の餓鬼達が酒を全部呑んでしまい破綻したそうですが。」
「ただ、餓鬼も一般には人と思われているので、餓鬼狩りにも大義名分が必要だな。」
「そんなもの何とでもなりますが、確かにあまり好ましくは無いでしょうね。焼酎でも提供すればいくらでも餓鬼が集まりそうですが、そこを捕まえる、というのも……。歴史的に見たら良くある話ですか。」
宴会の席で襲う。というのは日本人のお家芸。ダンテ「神曲」が実話なら、地獄の最下層「コキュートス」の第三区画は日本人で溢れかえっており、第一・第四区画は古今東西様々な故人達でパンクしているはず。秦檜が第二区画にふさわしいかは諸説あるだろう。
「マリーさん、新酒を大々的に振る舞って、集まってきた餓鬼を捕まえる。か。」
「ただ、飲酒で生贄、つまり死刑というのも、刑罰として重い気がします。この地域では一般的に死罪は10両以上の盗み。このダンジョンでは監視が行き届いているので基本的には殺人専用です。」
「そうなると、戦争を起こして、戦争だから仕方ない。とするか。」
「まず酒を量産し、関所でダンジョン影響圏外への酒の搬出を厳しく統制して、ごく少量だけ外部に流し、意図的に餓鬼を暴発させる。あたりでしょうか。もちろん影響圏で完全に囲まれた町や村の多くは、元から関所なんか無いので規制は不可能ですが、それは問題ありません。」
「マリーさん、その、餓鬼は石垣って、その餓鬼、まだ埋まっているのでは。」
「おそらく。何百年も昔ですから、摩耗はしているかもしれませんが。」
「なら、その餓鬼を掘り起こす訳には行かないだろうか。」
「マスター、確かに埋まっている大昔の餓鬼で、既に滅びた勢力なら、子孫……餓鬼って鉱物界所属で、繁殖はせずに孫悟空みたいに石から生えてきたはずですね。なら先祖も子孫も居ないので、大昔の餓鬼を掘り起こしても遺跡の発掘と同じで、墓荒らしには該当しないでしょう。この世界には鉱業法もありませんし。」
「吾輩も餓鬼のことは詳しくは知らないな。」
伝統的な博物学やリンネ式階層分類体系では動物界・植物界・鉱物界に分類するが、この世界では順に畜生道・修羅道・餓鬼道に対応する。「餓鬼の生贄は売却のほか、傘下ダンジョンの支援にも使用できますし、甲の国での餓鬼の採掘を計画しましょう。」
「マリーさん、関係無い話かもしれないが、球根ってあるだろ。植物の。」
「はい?」
「修羅でも種類によっては球根として保存出来たりはしないのか。」
「修羅が球根に『なる』ことはありませんね。繁殖のために球根を作る種類は居ますが、球根は修羅の種子や苗と同じく普通の植物で、知的生命体ではありません。あと、修羅でも畜生でも、種類によっては生活に不適な季節は休眠する者も居ます。ただ、餓鬼のように長期間保存する用途には向かないでしょう。クマムシ獣人でも居れば別ですが。」
「特定のダンジョン以外では自重を支えられない。だったな。」
「緩歩動物は呼吸器も循環器も無いので、それを補う固有法則が無いと大型化は不可能ですね。」




