525:メークイン男爵、抗議する
那須塩原ダンジョンの支配者は、那須大膳大夫や那須右京亮などソラヌム・メロンゲナ、つまりナス修羅。この世界、馬鈴薯、つまりジャガイモは比較的マイナーな作物であり、蕃茄と呼ばれるトマトに至っては鑑賞用だが、那須塩原では那須家の同属として威張っている。もっとも那須塩原の修羅は過半がナス属だが。
【第34層群・生涯学習棟・小研修室】
「那須塩原が必要とするのは生贄。こちらの要求は単純で、生贄を直接供給するか、人間どもから生贄を買うための小判を渡すこと。」
「住民は領民ではあっても、わたしの所有物ではありませんから、生贄として渡すことは出来ませんね。小判に関しては、そちらが何を販売できるのか。それによります。」
メークイン男爵は生贄を要求するが、その権限は無いマリー。
「むろん、煙草だ。那須塩原は茄子科の植物の生育が良くなる。」
「このダンジョンでは固有法則で喫煙は出来ませんからね。馬鈴薯や唐辛子は、あまり『品質』が問題になる社会ではありませんし。那須塩原の塩がリチウムでも含むなら利用価値はありますが。」
塩類平原の成分は地質の影響を受けるため、那須塩原の塩には大した価値は無い。
「あるいは、那須塩原のような『地域型』ダンジョンが、どのような仕組みで影響圏を拡張するのかを明らかにし、かつ塔型であるこのダンジョンでの応用に成功したなら、その情報には千両箱で数えるような、小判は生産出来ませんから米俵での支払いになるでしょうが、それだけの価値はあります。」
「ダンジョン運営の詳細は、那須家の一部しか知らぬ。」
「精霊馬用の茄子に大金を払うわけにもいきませんし、その点は大膳大夫殿によろしくお伝え下さい。既に那須塩原の四方は、このダンジョンの影響圏で囲まれていますから、拡張方法を隠匿する利点は無いでしょう。」
五位鷺に正五位野田大膳大夫というのが居るがもちろん別人。朝廷も幕府も無い状態なので、官位は家格や実力を参考に勝手に名乗る物。もちろん常陸守・上野守・上総守はダメ。といった慣習はある。
「……精霊馬は、良い物を使えば、後で美味しく食べることが出来るが。胡瓜の方は桐生あたりから。」
食料が貴重だった時代、もちろん精霊馬も最期は食用にされた。なお、精霊馬が、キュウリ、英語でキューカンバーを九冠馬と掛け、有名な五冠馬より速い。という駄洒落が広まったのは20世紀中頃。アーモンドで目を付けるのは21世紀になってから。
「わたしはダンジョンモンスターで先祖はいませんから、精霊馬も必要ありませんね。」




