524:メークイン男爵、再び
那須塩原ダンジョンは、「手に掬う水も無し」と言われる乾燥した不毛の大地だが、ダンジョンの機能による「塩上帆船」により、関八州と奥州を結ぶ交通の拠点として栄えてきた。かつては。
【毛の国・河内郡・宇都宮城北東・小倉港】
真っ白な塩の上、長さ60m・幅10m程の3本マストの高速帆船が、帆を全部畳んでいるにもかかわらず、ゆっくりと動いて桟橋に接岸する。
「以前にも増して寂れた港町だな。」
船から降りてきたソラナム・ツベローサム・アイリッシュコブラー・メークイン男爵が言う。
「男爵様、紫蘇どものせいで船を使う商人が大幅に減っています。」
「大膳大夫様には生贄が必要なのに、あのバカが那須塩原を迂回する転送陣を作ったせいで、人間どもが通らなくなってしまった。転送陣の運賃より生贄の方が安上がりだろうに。」
船からは、生きた船首像の持衰が降ろされるが、交代要員が足りないため酷使されており、だいぶ状態は悪い。
【毛の国・宇都宮城北方・塩谷大宮】
那須塩原への玄関口となる小倉の西2里、図書館都市ダンジョンと那須塩原が接する場所に、塩谷大宮の村が作られている。
「忌々しいことに、設備はこちらの方が小倉より立派だな。」
異世界から小学校を複製召喚した立派な建物がある。村は禁煙なので、男爵達は外側で大量に煙草を吸う。
「男爵様、やはり生贄を那須塩原で飼育して殖やすしかないでしょうか。」
「それは難しいな。殖やすとなると、飼育環境も整備しないといけないし、餌も多く必要だ。そもそも、那須塩原は紫蘇どもの塔みたいに水が潤沢なダンジョンとは違う。茄子科の修羅も多くは暮らせないので、生贄を養う余裕はない。」
「紫蘇の塔がこちらの要求を飲むでしょうか。」
「断るだろうな。だが、きちんと抗議したという事実が重要だ。あと、次の手として紫蘇どもから小判を入手する方法が必要だ。」
「小判ですか。人間じゃあるまいし。」
「遠方への遠征は困難なので、生贄狩りも難しいし、結局、生贄は奥州の貧しい村から買い付けるしか無いだろう。田畑を広げられない以上、次男三男は利用価値が無い。そのために小判は役に立つ。」
「なるほど。さすが男爵様。それで、小判はどうやって入手するのです。」
「むろん、今の問題は紫蘇どもが悪いから、賠償を要求する。」
「男爵様、通常、ダンジョンは攻めるのは苦手ですが守りには強いのですが、今回、那須塩原が生贄不足で守り切れない状態なので、拒否されそうな気がします。」
「確かに今回はこちらが不利だ。大型ダンジョンであっても、修羅や畜生ではそこまで多数の人口は維持出来ない。このため、どうしても大型ダンジョンは生贄を補充しないといけないという弱点が有る。かといって人間牧場に向いたダンジョンは少ないし、なにより人間牧場は人間が殖えすぎて300年で破綻する。」




