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番外:赤シャツ召喚

今日で2周年。

最初にダンジョンマスターが適当に「ヨシ!」とか言わず、チュートリアルを進めていたら、こんな感じだったのかも?

【コアルーム】


「吾輩はダンジョンマスターである。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。」

 黄色がかった灰色に黒の模様、要はキジトラの図書館猫。

 一通りの知識は頭にあるようだが、それが使い物になるかは分からない。ニャーニャー泣いても意味は無いので、まず状況を確認する。

「ふむ。ありきたりな部屋だな。」

 いかにもダンジョンっぽい「薄暗いじめじめした所」ということはなく、ごく普通の小さい事務所といった感じ。いくつかの事務机と会議机、片隅には流し台がある。壁には空の書類キャビネット、本棚、ホワイトボードなどが設置されており、ホワイトボードには机の1つに置かれた水晶から光が放たれ、「menu」という単語が浮かんでいる。

「そして、これがダンジョンコアか?」

 机の1つに、白と緑が混ざったような色合いの橄欖岩で出来た30cm角程度・厚さ6cm程度の四角い台があり、銀色の鉄ニッケル合金で出来た直径20cm程度の金属球が載っている。生暖かい程度の温度だが、表面が液体っぽいのが特徴。

 ダンジョンマスターは、台の厚さと球体の直系の比率が、概ね世界のマントルの厚さとコアの直系の比率になっており、台の底面には地殻に対応するごく薄い花崗岩の板がある。ということまでは気付かない。

「本棚の本は……『Encyclopedia Dungeonica』……難解な英英辞典だな。横の『Dungeon 101』は入門書だろうが……今ひとつ分からぬ。」

 ダンジョンが冒険者の感情と生命をエネルギー源とする存在である。ということは知識としてあり、自身がダンジョン「マスター」ということは、迷宮に関する何らかの修士号を持っているということ。



【建物の外】


「田舎の小規模図書館だな。」

 ダンジョンコアのある事務室の隣には、本が1冊も無い図書館。他に居住スペースと会議室、がらんどうの喫茶室がある。

「……どうやって冒険者を呼ぶんだ。これ。見渡す限り砂漠だぞ。」

 ダンジョンの建物は平屋で、ざっと30m四方程度。空は一面の灰色で、大地は薄暗く何も生えていない。建物は小高い丘の上にあるが、見える範囲に村らしき物は見当たらない。



【コアルーム】


「え~と、まず『menu』を触れれば良いんだろうか。」

 マスターがホワイトボードの「menu」を触れると「feature、artifact、creature」といった文字が並ぶ。

「辞書が欲しいな。辞書くらい無いのか。」

 よくよく見てみると、「creature」の文字は明るい色で表示されており、他は灰色。

「なら、まずは『creature』と。お、いろいろ出てきたな。」

 リストには「name・cost・type・detail」という項目があり、先頭の名前は「librarian」、一番下は「woodboring beetle」「booklice」「silverfish」。

「木材ボウリング(十柱戯)甲虫、書籍ご飯、銀の魚か……。文字の色は……『librarian』か。リブラリアン? ライブラリアン? 確か「ダッチロールの怪物ハネダブライアン」という競争馬が居たはず。灰色(gray)の怪物オグリタダマサは居なさそうだ。三冠馬だからコストが高いのも当然か。」

 最初のセントエルモや大昔のシンガリアドルフから最近のものまで名前は知っている。

「文字色が明るいのは三冠馬だけなので、これを選ぶのか。表示されている棒の長さから見て「コスト」は多いな。足りるのか?」

 マスターが「librarian」を押すと、一瞬だけ詳細設定画面っぽいものが表示されたが、すぐにスキップされる。ダンジョンコアの金属球が英語と思われる意味不明の言葉を発し、強く光る。


 現れたのは、身長1.6mほどの人間の男。この世界で背が高いのか低いのかは不明。服装は真っ赤なシャツ。ダンジョンマスターは、通常赤シャツ(redshirt)は汎用品の使い捨てであり、さっさと死ぬ、あるいは暴漢に卵をぶつけられて殴られるのが仕事。ということは知らない。

「え~と、確かリベラリアンだったか。」

「ライブレリアン。本来は図書館資料を管理する専門職員、つまり司書(ししょ)ですが、最初はチュートリアル、つまり入門部分と言うことで、ナビゲーター(案内係)として文学士で英語教師の僕が呼ばれました。ホホホホ。」

 妙に高く柔らかい声。なお、日本人はRとLが不明瞭なので、もし音声認識だったらライブレリアン(司書)ではなくレプティリアン(トカゲ男)を召喚しかねない。

「本棚の本が全部英語だから英語教師は頼もしいな。」



【コアルーム】


 赤シャツが「Encyclopedia Dungeonica」を読んでいる。

「ダンジョン内で知的生命体が何かをする、あるいは亡くなればダンジョンは力を得られる。か。そして、このダンジョンでは、文学書を読むとか、または新体詩や俳句を作るとか、マドンナに逢うとか、何でも高尚な精神的娯楽を求めなくってはいけない。」

 さすが文学士様。理解が早い。

「砂漠なので、峠の茶屋的に、旅人に蕎麦とか団子とか出すのはどうだろうか。」

「物質的の快楽ばかり求めるのはダンジョンのためにはならないが、確かにマスターも僕も食事は必要だ。冒険者も同じだろう。」

 台所の冷蔵庫には、野菜・果物・肉・魚・卵・牛乳などと、ブラックコーヒー・缶ビール・エナジードリンクが。冷蔵庫の横には米や調味料が並んでいる。

「吾輩はこれで良いが、人間の食事は調理が必要だな。」

「……吉川君? は料理ができたか? だが、この世界ではナマズ獣人、料理は難しいか。ともかく、チュートリアル(入門部分)を進めよう。」

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