513:プラネタリウムにて
【第259層群・プラネタリウム】
「以上が、この連星系の既知の惑星ですね。居住可能なのは、太陽側に、土星・この世界・月・木星・金星と5天体、少陽側に瀞谷・希臘・蛭田・圖勒の4つ、もしかしたら仮称『林星』の衛星3つ。」
「無駄に多いが、どれも現状では手が届かない。」
「偶然とは考えられないほど多いですね。とはいえ、惑星工学はSFの世界だけですから、きわめてまれな偶然なのでしょうね。そして、少なくとも太陽側の4天体は、既に呼吸可能な大気を持ち、宇宙船さえあれば即座に開拓、いえ、征服できる。というのは利点ですね。テラフォーミングだと何千年必要か分かりません。人間牧場の寿命は通常300年ですから、人口過剰が手遅れになる前に対策が必要です。」
「とはいえ、元からの住民もいるわけだろ。」
「少なくとも木星と金星以外は大部分が砂漠で空いている土地はいくらでもありますから、クローンダンジョンを作ることができれば相当な面積を活用出来ます。」
「マリーさん、異世界日本の図書館は、あらかたこのダンジョンで複製召喚しているが、複数ダンジョンで召喚できるだろうか。」
「わたしは日本語の他に、一応、英語・フランス語・中国語を最低限使うことができますから、それぞれアメリカ・イギリス・インド帝国・フランス・カナダ・中華帝国・中華民国・後清などの図書館を積み上げたダンジョンを用意出来れば、概ね各天体に拠点を置くことは可能でしょう。もっとも、インド帝国は英語もヒンドゥスターニー語も全国民が話すことはできませんが。」
「他に図書館がたくさん確保出来そうな国となると……。」
「労農ロシアでしょうか。ただ、わたしはキリル文字は読むことすらできません。ゴルキがロシアの文学者で、ゴルフが中国発祥の球技で、ゴル……どちらも死後70年経っていませんね。米のなる木は岡山の民謡か、二十六銀行のシンボルマークか。」
ゴルフは中国の捶丸が起源という説が有力。
「マリーさんのクローンを作ることには道徳的な問題は無いとしても……。」
「人間のクローンを作ることが修羅道への転落と言われるように、修羅界ではクローンは一般的ですからね。」
「どうやって他の惑星に行き、ダンジョンを作るか。だな。」
「それ以前に、わたしのクローンをちゃんと育てられるか。が問題です。」
「子育てはなぁ。吾輩も全く知らない。」
「マスターの場合、種族的な問題もありますからね。狸ではありませんし。異世界でも種牡人を使い母親だけで子供を育てるべきという『哺乳類主義』や、子育ての社会化を主張する『真社会主義』はありましたが。」
狸は人間に上手く化けるために一夫一妻制という。
「実験、という訳にも行かないな。」
「修羅では無く普通の植物なら、第三層群の屋上庭園でいろいろ育てていますが、子供は失敗するわけにはいきませんからね。なにしろ、人間という1種の中ですら遺伝的多様性により適した子供の育て方は異なり、いろいろと悲劇が起きています。」
「別の方向性も考えた方がいいかもな。現地のダンジョンを手懐けるとか。」
「惑星の中心となるダンジョンは過大な力を持つことになりますからね。飼い犬に手を噛まれないとも限りません。クローンが絶対裏切らない訳でもありませんが。」
「歴史上でも親殺しは多いな。」
「……わたしと同じ性格なら危ないかもしれませんが……。」




