512:瀞谷(トロヤ)と蛭田(ヒルダ)と……
【第259層群・プラネタリウム】
「つまり、少陽には、まともな居住可能惑星は無いと。」
「いえ、ガス惑星が木星の約10倍と重いため、いわば異世界小惑星のトロヤ群・ヒルダ群・チューレ群に相当する位置に立派な惑星が存在します。つまり、居住可能と思われる天体は最大4つですね。酸素があるか無いかは、まだ分かりませんが。」
「確かトロヤ群はラグランジュ点に位置するんだったか。」
「はい。軌道上で惑星の前方、L4側がギリシア人、後方のL5側がトロイア人の名前を付けるべきですが、トロヤ惑星は1つづつなので、L5側は『瀞谷』で良いでしょう。おそらく比較的涼しい惑星と思われますが不明です。」
「そうなるとL4側はギリシアか。」
「はい。L4の大きい側の惑星は、トロイア戦争のギリシャ側総大将アガメムノーンはミュケーナイ王なので邁錫尼も考えましたが、いっそギリシャの漢字表記、『希臘』で良いと思います。」
「シーラの方が大きいのか。」
「異世界の小惑星でも一般にL4の方が数が多くなっていますね。」
「そして、ヒルダ群というのは。」
「仮称『林星』の内側、2:3で軌道共鳴する惑星ですね。ハビタブルゾーンは太陽に似た恒星の場合、エネルギーが0.75~1.5kW/m2。内側と外側の光の量が2倍、つまり距離が1.4倍ですから、公転周期は1.67倍。これに対し、惑星とヒルダ群の周期は2:3で1.5倍、距離は1.31倍ですから、仮称『林星』のハビタブルゾーン外縁に対し、ヒルダ惑星はこの星系の『土星』のようにハビタブルゾーンの内側近くに位置します。」
「ヒルダ惑星なので名前は蛭田か。」
「何か丹沢ヒルズの大天狗みたいな名前ですね。この世界のみならず、異世界の丹沢も、かつては天狗で有名でした。今世紀初めに亡くなりましたから今は居ませんが。」
「たしかもう1つ、チュ■ル群だったか……。」
「チューレ群です。3:4共鳴で、マスターのおやつではありません。チューレは上手く漢字表記できませんから、中国語の圖勒にするか、全く違う名前にするか。ですね。」
「他には惑星は無いのか。」
「きちんと調査はしていませんが、仮称『林星』がほとんど褐色矮星になりかねないほど重く、他の惑星は力学的に『周連星惑星』と近い状態になるため、他に惑星があるとすれば、少陽のごく近くか、仮称『林星』と軌道共鳴した天体でしょうね。ずっと外側だと今度は、この世界の太陽の影響を受けます。」
「つまり冥王星は存在しないと。」
「はい。もっとも、冥王星は科学的には太陽系外縁天体で、政治的な特例として惑星と扱われているだけなので、同様の天体があっても惑星とは扱われないでしょう。」
異世界では冥王星の地位問題がアメリカと労農ロシア・フランスとの政治的な問題となり、特例として惑星のままとなっている。
「マリーさん、恒星は太陽と少陽の2つだったか。」
「はい。もし恒星が3つあると三体問題を引き起こし惑星の軌道がなかなか安定しません。ケンタウルス座α星みたいに3つ目の恒星が極端に離れていれば別ですが、1/4光年も離れていると、今度は近隣恒星の影響で3つ目の恒星が飛ばされたりしかねません。」
「この星系は三重星系では無いと。」
「ですね。恒星が3つあるなら、固有名は伊勢・志摩・伊賀と命名すると良いでしょうが。紀伊の一部も三重県ですが。」




