005:スライムの召喚
(説明)
【コアルーム】
「マリーさん、このダンジョンで召喚出来るモンスターって、主系列を置き換えた『紫蘇』と、あとは虫だけだったな。」
「そうですね。本来は、図書館職員の牛頭馬頭と害虫。つまり図書館に居る生物ってことになります。
基本的にダンジョンは、そのダンジョンに普通に居るモンスターを召喚出来ます。例えば『海賊船』なら、海賊やネズミやゾウムシ、『洞窟』なら、コウモリとか目がないエビとかです。」
「定番モンスターのスライムとかゴブリンとかはどうなっているんだ?」
「ダンジョンのモンスターもアイテムも、異世界で普通の物しか召喚出来ませんから、つまり、普通に洞窟にそういうのがたくさん居る異世界の産物でしょう。ダンジョン大百科によると、スライムがザコだったり強敵だったりするのは召喚元の異世界が違うためとのことです。」
「このダンジョンでも、スライムくらい召喚出来ないものか。」
「え~と、検索……モンスターではなく本にありますね。『スライムを作る』と。」
本に、チューブとか袋とかに入った材料が付属している。マリーが説明書通りに材料を混ぜ合わせると、個体とも液体とも言え無い物体が出来た。
「どう見てもモンスターでは無いだろ。これ。」
「動きませんね。もっとも、名無しのダンジョンモンスターは厳密には生き物では無いのですが。」
「確か飲食不要だったな。」
「活動エネルギーはダンジョンから供給されますし、倒されたら『ドロップアイテム』を残します。」
「菓子が手に入るのか。確か『トリック・オア・トリート』だったか。」
「違います。マスター。
モンスターを丸ごと死体として残したら収支が赤字になるので、冒険者にはモンスターと関係のある素材を与えます。例えば名前なしの紫蘇(修羅)ならハーブが相応しいでしょうね。ただ、ドロップアイテムも生きてはいませんから、そのハーブを挿し木しても殖えたりはしません。」
「このスライムって、モンスター召喚じゃ無くて、本の付録、つまりアイテム召喚だろ。」
「そうですね。どうやら本ならば付録が付いていても問題無く召喚出来そうです。ただ、召喚コストは発行部数で決まるようで、あまり安くはありませんが。例えば……適当に召喚してみましょう。」
マリーは本と言うより箱っぽい物体を召喚した。
「『週刊 カサブランカ級護衛空母をつくる』。か?」
ダンジョンマスターが箱を開けると、多数の細かい部品が入っていた。マリーが説明書通りに材料を組み立てると、全長20cmくらいの模型が完成。(もちろん、ダンジョン外でメートル法が通用するかは不明)
「全50号ですから、こんな模型を50個も作る暇な人が異世界には居るってことですよね。」
「さすがにモンスターが付録の本など無いだろうな。」
「そして、これは模型ですから、こんな船を50隻も作る暇な国が異世界にはある。ってことですね。」
「これ、野菜の種子が付録した雑誌なら、どうなのでしょうか?」
「モンスター扱いなのか、普通の野菜なのか、それとも芽が出ないのか?」
「早速試してみましょう。ただ、このあたりの土は養分がありませんから、何らかの方法で肥料を入手する必要がありますね。……ダンジョンマスターや主系列モンスターはコアルームで食糧を召喚出来ます。紫蘇は修羅ですから、つまり台所にある食材が使えるはずです。」
台所の冷蔵庫横には、液体肥料や固形肥料が積み上げられている。冷蔵庫は修羅用の泥水みたいな不味い飼料の他はほとんど空っぽで、片隅にブラックコーヒー・缶ビール・エナジードリンクが寂しく並んでいる。
「この不味そうな泥水で?」
「いえ、これは人間体を維持するためのもので、今回必要なのは植物用の肥料ですね。できるだけ微量成分もきちんと含まれたものを選んで。」
修羅は概ね人間と同じ食事を食べることも可能で、別に光合成で生きている訳では無い。逆に修羅の餌で人間が生きることも可能。不味くて精神的に死ぬだろうけど。獣人は普通の動物より毒に強いとは言えダメな食材がある程度。餓鬼は物理的に食べることが出来ても、アルコールやエーテルしか吸収できない。