498:石油王の夢はかなく
【第三層群屋上庭園】
「図書頭さま、石油ダンジョンの探査ですか。」
藪紫修羅で地質学専門の五條が来た。見た目はアウトドア系の紫式部。ただ、山で石を割ったりするのに長すぎる髪は邪魔になるはず。
「はい。お願いします。異世界の新潟には小規模な油田があるので、越の国には油田ダンジョンがあるかもしれません。」
「もし油田ダンジョンがあったとしても、はっきり言って活用は難しいでしょう。まだ松の根を掘り起こして松根油を集めた方が確実で、それなら眷属の浅見ミケどのの方が専門です。彼女は林学と言うより造園ですが。」
三毛だからミケ。
「松明として使う程度ならともかく、量産するには、まず松を大量に100年か200年栽培して、伐採して木材は利用、それから10年ほど切り株を放置してから掘り起こさないといけませんから、到底間に合いません。」
「まず、この世界では石油はダンジョン以外には存在しない。というのは、履歴書では修士でも実際には高等女学校も大学も卒業されていない図書頭さまにも、おわかりと思われます。」
「はい。石油は基本的には生物由来ですからね。あと、わたしの学歴・職歴はあくまでも設定上で、実際の前世がどうだったのかは分かりませんが、これは仕様です。」
普通は輪廻転生時に前世の記憶は持ち越さない。そもそも確率的には前世は一般動植物の可能性の方が圧倒的に高い。なお、微生物が六道輪廻の対象かは不明。
「官僚から議員秘書という職歴も設定だけで実際にはニートというのは触れないでおきます。」
「それを言ったら、このダンジョンのダンジョンモンスターや眷属は全員、異世界転生や死体憑依召喚では無いので、最初はニートと言うことになってしまいます。」
なお、ヤブムラサキがムラサキシキブと同属というのは生物学上の事実であり、別に「設定」ではない。
「図書頭さま、経歴詐称はさておき油田に話を戻すと、今の異世界ではコストと環境の問題から、油田はあまり使われていませんが、異世界の油田は多くがテチス海由来で、カリブ海付近から地中海・中近東・東南アジア付近。異世界新潟の油田はどれも規模が小さく質も良くないため、採算は取れません。ダンジョンなら育成で規模を大きく出来ますが、質に関しては改善の見込みはありません。」
「旧式の自動車なら使えるかも。というあたりでしょうか。」
「私の専門外なので断定はできませんが、20世紀初め頃のエンジンなら動くかもしれません。ただ、異世界では新潟の石油は厄介者扱いですから、せいぜい石油ランプ用ではないかとも思われます。」
「確かに図書館の本によると、20世紀初め頃の新潟には、中野貫一・内藤久寛・山田又七と3人の石油王が居ましたが、自動車はほとんど無い時代ですね。」
「もう一つ懸念されるのが、油田ダンジョンがあったとして、図書頭さまの言うことを聞くか。という問題です。近隣の鉱山ダンジョンは、あらかたマスター不在で交渉不能、残りも餓鬼が多くやはり交渉不能。石油も同様では無いかと。それに、例え修羅が支配するダンジョンでも那須塩原や三角草野のような例もあります。」
「そもそも修羅道は光や水と言った共通の資源を奪い合う戦いの世界ですね。確かに。かといって冒険者でも送り込んでダンジョンを完全に制圧してしまうと、もはや産物は得られません。」




