495:大地を這う物
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「♪東の、空に、朝日が昇り~、西へと、消えゆく、白い月~」
地上142km。ダンジョンの固有法則で大気は維持されているが、れっきとした漆黒の宇宙である。下界では、朝日に照らされた茶色の広大な砂漠の中に、貯水池や田畑が黒く見える。西の空には月。ただ、この世界では、その位置は変わらない。
マリーは繁殖力自体無く、修羅なので食事は液肥で十分だが、別に欲界を離れた色界の住民では無く、このダンジョンも須弥山ではない。
(さて、今日から第五期。)
屋上庭園のさらに上、元は緊急救助用スペースだった場所はマリー専用となっている。打ち合わせのためにダンジョンマスターや名前付きモンスター達も出入りするが、マリーの許可無しには出入りしない。
(ちょっとカーディガンには早いかな。)
秋物衣類を見ながら少し考えるマリー。
【第三層群屋上庭園】
第三層群屋上庭園はハーブ類を中心とした地中海風の庭園となっている。ただし、修羅も畜生もハーブティーなどは嗜まない。
「ミント、ソーラープレーンは上手く行きそうですか。」
「まだ見通しは立たないな。」
「さすがに技術的飛躍が大きすぎますか。ですが、江戸時代の技術水準で世界一周となると、この世界には海がありませんし、陸路も補給の問題があります。」
「根本的問題として、長距離の移動には必須の、重量エネルギー密度の高い炭化水素燃料が入手出来ない。」
「燃料の養殖は技術的に敷居が高いですね……。」
砂漠に塩水を張り、藻類を養殖する。と言うのは簡単だが、技術的には養殖にも燃料の精製にも様々な難問がある。
「技術的には、油田ダンジョンでも探す方が容易だが、問題は21世紀のエンジンや燃料電池は、不純物が混ざった粗悪な燃料では動かない。」
「逆に、ごく初期の移動図書館なら、粗悪燃料で動いたりしないでしょうか。高知県の移動図書館とか千葉県の訪問図書館とか。」
「側近書記殿、動くことは動くだろうが、故障の可能性が高くなるためダンジョン影響圏外での使用には向かない。砂漠の真ん中で故障したら命に関わる。」
「確かに、アメリカ製ピックアップトラックの中でも、特に耐久性と整備性に優れた車種でないと危険ですね。むしろ、ダンジョン影響圏外で使う前提なら、異世界21世紀後半の電子化された車より、より原始的な20世紀の車の方が向いているかもしれません。」
「図書館の公用車にピックアップトラックは少ないが、土木とか農業とか他部署から転用された公用車が、電動も炭化水素燃料もごく少数はあるから、燃料さえきちんと用意出来れば、運用出来ないことは無いが……。」
「……確かに、自動車だと広範囲の観察には限界がありますね。結局、飛ばないといけませんか。」




