488:無人偵察機(5)太陽電池式の成層圏無人機
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マリーさん、その『太陽電池式の成層圏無人機』を作ることは出来ないか。太陽電池はどこにでもあるし、機器は分冊百科のドローンから流用、機体は炭素系複合材料をダンジョン構造物として作れば可能なのでは。」
「マスター、理論的には可能とは思われますが……。ただ、太陽電池で動くとなると、きわめて軽量でありながら大型になりますから、風が吹くと墜落しますね。天気予報が出来ないダンジョン影響圏で使うとなると、異世界の成層圏無人機のように成層圏で運用することになるでしょう。」
【第三層群10階会議室】
「そういうわけで、メリッサ、ソーラープレーンの製造をお願いします。コスト的には塔の方が安上がりですが、ダンジョン影響圏外では使えません。」
「困難です。この世界は太陽光が異世界の7割と弱く、太陽電池は面積あたりの出力が限られますから、手持ちの部品では、飛行機を浮かすことは出来ても、大気の薄い成層圏で高速飛行は出来ません。」
「低い高度……だと悪天候の影響を避けられないですね。」
「軽量で構造が弱いため、容易に墜落します。」
「それなら、ダンジョン影響圏から遠くを偵察するとなると、手持ちの部品を前提にすると、何が考えられるでしょうか。」
「現状では困難です。爆轟回転発動機は技術的に不可能ですし、炭化水素燃料を生産したとしても自動車のレシプロエンジンは航空用には重すぎます。」
「やはり、飛行機自体を入手可能なダンジョンが無いと不可能ということでしょうか。」
「はい。でも、無数の技術者を育成し、前提技術を順次開発していくなら、少なくとも21世紀後半までは結論が知識としては存在するため、異世界よりは大幅に短縮出来るでしょう。」
「まず、技術者を増やさないといけませんか。一度、理工系の修羅を全員集めて、課題の洗い出しと優先順位の設定が必要ですね。直接物理的に集まる必要はありませんが。」
「相当に無駄は多いですが、能力の制約されるソーラープレーンで最低限の観測をしつつ、炭化水素燃料や航空用レシプロエンジンの開発を進めるのが最速でしょう。」
「なら、『現時点で可能な』ソーラープレーンの準備をお願いします。どうやっても無理となれば、次の手を考えましょう。」
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「とにかく、21世紀の技術を持つダンジョンが、このダンジョン以外にただの1つも見つからない。という現状はどうにもできませんね。」
「このダンジョンの次に技術的に進んでいるのは……。」
「おそらく、中山競馬場ダンジョンです。年代的には、入場者数が最多の1990年、確か『灰色の怪物』オグリタダマサだったか? あるいは物価換算で売り上げ最多の1996年あたりです。」
「かなりダンジョンが弱っているため断定は出来ないが、やはり競馬場の備品以外は入手出来そうに無いな。」
「それでも、そのうちトラクターが入手出来るでしょうから、1台分解して量産することは可能でしょう。今年の中山グランプリは、相変わらず直線1kmですが芝コースとなります。」
「チョクセンバンチョなら53秒だったか。」
競走馬は9文字までなので、直線番長は収まらない。
「チーターや馬のクオーターホースの方が最高速度は速いですが、1kmは持ちませんね。そうなると、1kmで最速の生物は、やはり競走馬でしょうか?」




