487:無人偵察機(4)船はうまく行ったのに
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「水素燃料を浮揚用と区別して、燃料タンクに詰め込んだりは出来ないのか。」
「水素ボンベの場合、圧縮ガスでも液体水素でも、50kgのボンベで水素の重さは1kgも無いため、重量的には容器を運搬しているようなものです。水素吸蔵合金も重量面では論外ですね。液体水素は異世界の飛行機や宇宙機にはけっこう使われていますが、ああいうのは主翼の内部が最初から燃料タンクとして設計されています。それでも燃料タンク自体の重さが相当ありますから、飛行船には出来ません。」
「船みたいには行かないな。」
「船は重量の制約は少ないですからね。」
鋼製コンテナ船のアスィエ級戦艦と準同型でクレーンを持つアッチャイオ級戦艦は、船体をダンジョン構造物として生成するが、ダンジョン影響圏から出ることが出来る。名前はフランス語とイタリア語で鋼鉄。「戦艦」と言うが、正体は火箭搭載可能貨物船。
「船の場合、移動図書館の電動機と蓄電池を流用したが、飛行機の場合、電動は難しかったな。」
「異世界でも電動の飛行機は基本的には練習用みたいな短距離用ですね。例外的に、太陽電池を使用したり、地上からマイクロ波で給電する成層圏無人中継基地がありますが。」
「ああ、電動機器の問題は電池の制約だから、電池を使わず外部から給電すれば軽量化できるわけか。その割には『電車』は世界的に見て少ないな。」
「鉄道の用途は基本的に長距離大量貨物輸送ですが、大陸横断鉄道の電化は費用対効果が合いません。東京みたいに都市計画が1920年代で自動車への対応が不十分な場合、通勤鉄道を併用せざるを得ませんが。」
「それでも国家予算の何年分もつぎ込んだんだったか。」
「関東大震災の復興予算は50億円で、当時の国家予算の4年分ですね。予算捻出のための宇垣軍縮では師団廃止は反対が強かったため中止、事実上徴兵制を廃止し実質的な規模を半減しました。日本軍が将校や下士官が多く兵が2割以下と少ないのは、この影響です。」
「つまり、責任者には先見の明が無かったと。」
「いえ、あくまでも結果論、『事後孔明』で、後藤新平の構想は当時としては先進的でした。予算を使いすぎた。という非難は当時からありましたが。」
「それで、船は上手く行ったが飛行機はダメなのは、燃料の重さが問題か。」
「はい。燃料に加えてモーターも航空用は軽量でないといけません。なお、マイクロ波は当然遠くには届きませんし、太陽電池は昼間しか使えませんから飛行船では半日分の蓄電池が必要になります。ちなみに、太陽電池式の成層圏無人機は大きさの割りにごく軽量で、小型旅客機くらいのサイズで重さは100kg程度です。」
「それでも、飛行性能は到底鳥には及ばないか。」
「渡り鳥には1度に数千km飛ぶ者もいますからね。ほんと、鳥獣人が鳥並の飛行能力持っていれば良いのですが。」
「物理の制約だから仕方ないな。それに、巨大昆虫が居ないだけマシだろう。」
「確かに、昆虫が巨大化した上に活動出来たら悪夢ですね。体長が10倍なら体重は1,000倍で、餌の量は180倍に増えてしまいます。バッタでも芋虫でも農業にとって致命的なことになります。」




