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486:無人偵察機(3)大きいことは……

【第三層群屋上展望台・世界樹】


「マスター、ダンジョン構造物はダンジョン影響圏外では物質本来の強度に戻りますから、飛行船の骨格はアルミ合金か炭素繊維あたりで十分な強度を持たせる必要がありますね。」

「つまり、あまり大型化は出来ないか。」

「ところが、鳥や飛行機は二乗三乗の法則で、大きいほど飛行が困難になりますが、飛行船は逆に大型化する方が余裕が出来るので、思い切って巨大化するのも選択肢です。それに、小型だとすぐに水素が抜けてしまいます。」

「すぐに?」

「はい。水素ガスは極端に『透過係数』が高く、金属でもプラスチックでも容易に透過して、わずか数時間で抜けてしまいます。このため、歴史上の飛行船では、酸化鉄とアルミニウムの混合物で飛行船の表面を塗装することで水素が数日持つようにしていますが、これは可燃物なので容易に炎上します。」

「いくら使い捨ての無人機とはいえ、こちらへデータを送信する前に墜落するようでは困るな。」

「異世界には『水素透過性』が低い樹脂や複合材もありますが、このダンジョンでは製造出来ません。つまり、水素ガスを入れる気嚢の素材が第一の問題です。おそらく、アルミ箔でコーティングしたプラスチックが最適かと思いますが、プラスチックの金属メッキは相当高度な技術です。」


「第一ということは第二もあると。」

「はい。図書館の空調機から取り外した燃料電池を飛行船に設置すること、ダンジョン視界外で自律航行させること、など、課題は山積です。取り急ぎ、飛行船の大きさを決めないといけませんね。」


「大きい方が良いと言っても、あまりに大きすぎると扱いが大変ですから、過去の大型飛行船を参考に試算します。」

「あくまでも参考だな。」

「過去の全長250m・ガス容積20万m3の飛行船『ヒンデンブルク』が、水素19万m3で揚力220t。これに対し、自重120t、搭載能力60t、重りなど10tなので燃料は30t。燃料の軽油は最大70t搭載できますが、その場合は荷物が減りますね。」

「それで、燃料電池を使うと効率は良くなるけど、水素燃料は場所を食うと。」

「はい。出力は4基で通常2.6MWですから、燃料電池の効率が40%なら燃料消費量は6.5MWなので、連続運転する場合に必要な燃料は1日に560GJ。水素は1kgで120MJなので1日4.7t、5万m3で揚力60t分です。おそらく当時の軽油の場合消費量は1日10tは越えたでしょう。」

「それで、1日航行すると?」

「水素ガスは1日で1割抜けるので減る揚力は22t、水素燃料の消費で揚力が60t減るので、残る揚力は138t。航行能力はギリギリ1日ですね。」

「難しいな。実際の歴史上の飛行船の運用は、概ね風に乗って移動し、エンジンはさほど使わなかったんだろう。」

「大西洋横断なら貿易風と偏西風が使用できますからね。」

「むしろ、体積のことを考えたら電池の方が良くないか。」

「先ほどの大型飛行船で計算すると、半導体電池は重量エネルギー密度が1~1.2kWh/kgなので、1日62MWhなら50~60t。水素ガスの漏出を考慮すると、1日持ちませんね。」

「やはり現実には『無ければ作る』という訳には行かないか。」

「あくまでも、次善どころか最終手段であり、それすら上手く行かない事の方が多くなりますね。ロビンソン・クルーソーが大英図書館、当時は無かったですが、それを持っていたところで、現実世界ならば生き残ることすら出来なかったでしょう。ただ、異世界では前世紀に成功していますので、手はあると思われます。」

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