485:無人偵察機(2)水素飛行船
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「炭化水素と水素ガスでは水素の方が製造は容易だろうか。」
「水素は単体で組成が単純ですし、世界のコアに大量に含まれますから、ダンジョンの機能で容易に入手出来ます。化学的にも食塩水に電気を流せば生成しますが、そんな手間を掛ける必要もありません。ただ、ドローンに使うとなると、水素はボンベでも水素吸蔵合金でも重すぎます。」
「その件に関して、飛行船が使えないかという提案が出ている。」
「……飛行船? ですか? どれどれ、技術的には前々世紀、19世紀末のものなので、理論的にはダンジョン構造物と召喚した図書館の備品で製造可能。ダンジョン影響圏外での無人運用なら水素ガスの危険性は軽視できる。ですか。」
「飛行船なら、水素を浮上用と燃料に兼用できる。」
「飛行船は米英で悪天候による墜落事故を起こし、それぞれ空軍大臣と海軍少将が殉職していますから、十分な天気予報が出来ない状態での有人運用は論外ですね。でも、無人なら爆発炎上しても人的被害は出ない。ですか。」
「多大なダンジョンエネルギーを投入した飛行船を使い捨てにするのは無駄が多いが。」
「遠方は電波が届きませんから、飛行船が帰ってこず墜落したら観測データも回収出来ませんね。それこそ中継飛行船を飛ばすか。」
「そうすれば自律操縦も不要か。」
「え~と、高さ1マイルのサイタマイルタワーの視界は140km程度。3,000mくらいの高度なら制御可能な範囲は追加で200km。中継飛行船1基で400km探査距離を広げられるので、ダンジョンから1,000kmを調査するなら途中に2基の中継飛行船が必要ですね。かなり大がかりな運用になります。あと、途中の飛行船が墜落するなどして電波が途絶えたときは、自動で戻ってくるようシステムを組む必要がありますね。」
「これでも、世界の裏側とかは手が出ないか。」
「今は、そこまでは考えなくて良いと思います。……電波が途絶えたら自動で戻るように設定するなら、最初から、一定距離で自動的に戻るよう設定した方が楽ですね。」
「確かに。あと、名前付きモンスターなら死んでも復活するから、飛行船に乗せるという手も。」
「復活に必要なダンジョンエネルギーが膨大ですから、飛行船を使い捨てにした方がマシです。それに、このダンジョンの名前付きに死にたがりは居ません。」
「自殺するのは六道で人間だけだったな。」
「あと、イルカの一部。犬や馬は精神的に参ってしまうことはありますが、自殺する意図は無いようですね。真社会性動物とか寄生虫の影響とかは別物です。」




