484:無人偵察機(1)鳥に劣る
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「このダンジョン、図書館が付属していれば、タワーマンションだろうとショッピングモールだろうと建物だけは複製召喚できますから、工場も小規模ならば、転用可能な建物は容易に入手出来ます。例えば『祖国地雷工場』も複製元は図書館付きのショッピングモールですね。」
塔屋部分にラテン語で「祖国」と書かれているため、こう呼ばれる。
「でも、工場には、それなりに広い内部空間が必要だからな。純粋な図書館はあまり向かない。」
「地雷工場は今後増築が必要ですが、スーパーマーケットでも、ハンナストアは長年地雷除去キャンペーンに協賛していますから、地雷工場に転用するのは良くないでしょうね。それに手頃な図書館併設店舗も見当たりませんし。」
池袋南口から埼玉方面へ向かう北武蔵急行電鉄は阪奈電鉄が運営するため、沿線の電鉄系スーパーもハンナストア。
「ただ、将来必要な飛行機工場あたりになると、ショッピングモールでも内部空間が足りないな。」
「既製品があれば安上がりですが、その規模だと、多数の異世界を探し回るより、いっそダンジョン構造物で作ってしまう方が早いかもしれません。現状では、飛行機どころか固定翼ドローンすら量産には至っていませんが。」
「ダンジョン影響圏の端から離陸して自動航行し、電波が届く範囲に戻ってきたらダンジョンからの制御で着陸。だったか。」
「はい。固定翼機は滑走路が必要ですが、航続距離は長く取ることが出来ます。ですが、全ての性能が鳥に劣っていますね。かといって、鳥を訓練して偵察させるのは困難です。」
「鳥獣人が役に立たないからな。」
「知能のある飛翔動物は、ダンジョン外では墜落しますからね。元から頭の良い鳥が、鳥の形状を保ったまま大型化した場合、飛行可能な場合もありますが、それも滑空が精一杯です。なにしろ、動物の鳥ですら大型のものはろくに飛ぶことが出来ません。」
「ダチョウとかか。」
「あのへんは最初から飛ばない鳥ですが、飛ぶ鳥でもコンドルは飛ぶのが下手で、もっぱらグライダーのように滑空します。大昔に著作権は切れていますが、ダニエル・アロミア・ロブレスの『コンドルが通り過ぎる』も、飛んでいくわけではありません。飛べない鳥なので、野球の球団の愛称に採用されなかったのかもしれませんね。仏日ルースターズもニワトリだから、あまり飛ばない気もしますが。」
「その辺は外資系新聞社の本国を象徴する動物だから良いんだろう。」
「新潟ベアーズも元は露日ベアーズですからね。米日ボールドイーグルズは当時の社主が禿げていたのも理由とのことですが。東京ジャップスの愛称候補に『フェザンツ』があったのもキジですね。」
アメリカの某球団が本国では「~ズ」なのに、日本では誤って「~ス」と誤用されるのはジャップスが悪い。
「それで、動物の鳥は制御できない、鳥獣人は飛行出来ない、ドローンは航続距離がまるで足りないか。」
「分冊百科のドローンでは実用的航続距離は100km程度ですからね。最低限1,000km、理想を言えば2,000~3,000kmもあれば十分ですが、そういう超長距離固定翼ドローンは概ね軍用で、図書館には資料がありません。さらに燃料の重量エネルギー密度の制約で、電池では無く液体炭化水素や水素ガスが必要になりますが、これらは生産手段がありません。」
「確か、炭化水素の重量エネルギー密度は電池の10倍だったか。」
「はい。変換効率の差が2倍なので、実質的には5倍程度ですが、十分大きな差です。」
「太陽電池で充電し続ける。とか無かったか。」
「異世界の成層圏プラットフォームですね。ちょっと技術的には手が出ません。」




