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048:ガマガエル襲来(1日目夕方)

【コアルーム】


側近書記セクレタリー殿、東方向・距離約4万に大規模な集団が居ます。数はおそらく数千。」

 原理的にはダンジョンからは約60kmを見ることが出来るが、実際には理論通りには行かない。

「東40km……未確認の廃墟があるあたりですね。難民か、あるいは敵……にしては、あまりにも多すぎますね。」

「正体は不明です。どうやら、その廃墟で野営する模様です。偵察ドローンを向かわせますが、あまり接近はしないようにします。」

「ミント、あの廃墟も、いずれきちんと調査すべきですが……。でも、片道2日かかりますからね。」

「冒険者にカメラ持たせて探索させるか。でも冒険者にカメラが使えるかという問題があるな。」

 ミントは「あいつらバカだし」とは言わなかった。ただ、修羅は別に人間より大幅に頭が良い訳では無い。



【第四層群1階応接室】


 マリーはこの地域の事情には詳しくないので、騎士団長に相談。騎士団長も遠方から来ているが、この世界の住民で、多摩たま入間いるまで暮らしていただけあって多少は地理を知っている。

「播磨介殿、東……卯の方角、距離10里に、数千人規模の集団が居ます。武装難民団など敵の場合、2~3日後に敵襲の可能性があります。」

「ほう、普通なら勝ち目は無いな。でも『だんじょん構造物』とやらで籠城するんだろ。あれはどうやっても壊せないからな。ただ、畑を荒らされるのは困るな。」

「いえ、畑の外側での迎撃を考えています。もちろんダンジョン構造物は使う予定ですが。それで、ここから卯の方向はどういう町があるのです?」

「卯か。あちらの方はふさとの国境よりも先、ここから20か30里くらいは完全な無人だ。その先に魚人の村があるという噂もあるが、その数だと、さらに向こうから来たんだろう。旗印は分かるか。」

「いえ、確認中です。」

入間いるまの代官所に援軍依頼するか?」

「いいえ、馬が1人しか居ないので伝令に出すわけにはいきませんし、そもそも今から頼んでも間に合いません。馬を連れてこない代官どのが悪いのですから、事後報告で十分です。もし敵軍に馬が居たら、今度こそ馬を生け捕りしないといけません。」



【コアルーム】


 ラージャが乗馬練習から戻ってきた。

「ラージャ、戻りました! なにやら敵襲だとか。」

「ミントの自爆ドローンが向かっています。そろそろ着く頃でしょう。」


 ドローンからの映像が入る。

館長キャプテン、2,000や3,000では済みません。正確に数えるにはバードウォッチャーが必要です。」

「このダンジョンでは召喚出来ないな。」

 鳥を数える。という属性のある紫蘇科植物があれば、紫蘇(修羅)として召喚可能だろうが。

「ミント、コンピューターで画像解析とか出来ませんか?」

「やってみるが、きちんと拾えるかな。ざっくりしか出ないと思うが。」


 ミントは画像をコンピューターで解析する。

「え~と、人数は概算で徒士かち足軽あしがる中間ちゅうげんが3,000、下男げなん・女中・遊女・商人ほか非戦闘員がおよそ2,000、大八車を曳いた小荷駄こにだ隊が5,000ほど。全部でおよそ10,000。大砲は無い模様。あと、側近書記セクレタリー殿には悪い知らせだが、見たところ馬は居ない。馬獣人は分からないが。」

 徒士:徒歩の武士。騎馬身分も馬が居ないためこの解像度の映像では判別不能。

 足軽:下級武士か武家奉公人か扱いは場合により異なる。槍・鉄砲など集団戦闘を行う。

 中間:武士では無い武家奉公人。戦場では刀1本。平時は基本的に雑用を行う。だいたい武士と同程度の数が居る。

 下男:武家奉公人。非戦闘員。小者こものとも。だいたい武士と同程度の数が居る。

「ミントさん、難民では無さそうだな。それにしても1万か。こちらの総人口の5倍以上だぞ。」

「武士は500人か1,000人といったところ。マスターさん、1日分の食糧1kg水3Lとして1万人なら40トン。大八車は150から200kg積む毎に陣夫2人が必要だから輸送可能な物資は推定500トン、半分が食料なら6日、2/3なら8日分、足軽以下は自分でも少しは持ち運ぶとして、食糧は最大でも10日分程度。」

 ラージャがざっくりと継戦能力を推測する。

「10日か。」

「おそらく、進軍して攻城戦して戻る分は考慮しているでしょうが、ギリギリと思います。」

「あれほど大八車が居るのに、そんなものなのか。」

 画面に映るのは、千台を軽く超えるであろう大八車。

「これが鉄砲とか大砲とか多用するなら、補給、兵站へいたんって言いますが、それはますます大変になります。仮に牛馬が居たところで牛飲馬食しますから、物資面ではあまり効率は良くありません。」


「本陣と思われる部隊の旗指物はカエル、それもヒキガエルです。」

 引き続き、ミントが報告。

「フランス軍?」

 フランスはカエルを自称はしない。

「ヒキガエルということは、また比企だろうな。でも比企は北西だぞ。わざわざ東から迂回するか?」



【第四層群1階応接室】


 再度、マリーと騎士団長が会談。

「確かにヒキガエルといえば比企ひきだが、比企と蝦蟇は同じ動物ゆえに、人数から見て、おそらく筑波つくばでしょうな。筑波はふさよりさらに遠く、50里ほども向こうだ。50里だと、街道があっても5日、大軍で道中に宿も無いので10日くらいかかる。3,000人と言うことは軍役だと10から15万石相当になるが、多すぎるので、おそらく傭兵や冒険者が大量に居ると思われる。当然途中の、おそらく国境付近に補給基地はあるだろうが、かなり大がかりな遠征だ。」

 異世界の比企郡は6万石だが、この世界は沙漠なのでそんなに無い。足立郡に至っては異世界では15万石だが、現状千石か二千石程度。常陸は100万石だが、この世界だと1割か2割と思われる。

「対して、こちらの戦力は騎馬1、徒士かち20ですか。」

「騎馬6、徒士15だ。書記長殿、馬が居なくてもそれがしは騎馬身分だ。対して、相手に騎馬は居ない。それに、籠城なら足軽はともかく中間は住民から募れば良い。」

「……単に相手も馬が居ないだけかもしれませんが……。」

「あと、蝦蟇と比企は同類なので比企も動いているかもしれぬ。あまり城から遠くへ離れるのは危険だ。」



【コアルーム】


「敵は筑波郡。他の郡や豪族、多数の傭兵や冒険者も加わっている模様で、戦力は実質3,000。あと2日でこちらに到着しますので、それまでに準備します。」

「マリー、あくまでも撃退で?」

 ラージャが聞く。

「撃退します。今更ダンジョンを捨てて逃げる訳にもいきません。」

「もう貧国弱兵は諦めたと言うことですね。そうと決まれば、もはや進むしかありません。富国強兵という修羅の道を。」

 修羅だから、こうなることは最初から運命づけられていた。

「ラージャさん、それにしても、3,000人も動員してこのダンジョンを攻める価値あるのかな。」

「全員が帰る分の水食糧はあるにしても余裕は無さそうですし、占領して居座るつもりでしょう。ここなら水がありますし、多摩・入間・比企を結ぶ街道にちょっかいかけることも可能です。おそらく、主目的は水ですね。このダンジョンは、かなり贅沢に供給していますから、水に余裕があると思われているのでしょう。」

「マスター、これ完全に戦争ですね。国ぐるみか地方領主の独断か、そもそも中央政府が無いのかは知りませんが。ラージャ、この世界の筑波ってどこの国の所属か分かりませんが。」

「一応、常陸とは思います。こちらでどう呼ばれているかは分かりませんが。東側の国は土が痩せて大豆しか育たず、腐った煮豆しか食べられないそうです。」

 それは言い過ぎ。豆腐だって味噌だって醤油だってある。ただ、醤油はふさの国の方が有名。

「それ、単に土に窒素が足りず豆しか育たないだけでは? いずれ肥料をぼったくりで売ってやれば良いかも知れませんが、土が死んでいるので肥料が効きにくいんですよね。 まぁ芋が主食のこのムサい国(むさし)にどうこう言う資格は無いでしょうが。」


「マスター、おそらく明日の野営地はこのあたり、明後日の午後遅くにはここまで来ます。」

 ラージャが地図を指す。未だ手書きの不正確なものだが無いよりはマシ。

「マリーさん、ラージャ将軍、撃退方法は任せるから、出来れば住民や畑への損害は最小にしてほしい。」

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