478:進歩のない無計画
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「西欧では多くの大学に神学部があります。ソルボンヌ大学のように排斥した例もありますが。しかし、異世界日本の帝国・官立・公立大学では神道系が1校あるのみで、仏教学部はどこにも置かれていません。このため、僧侶の養成に必要な備品は複製召喚出来ませんね。」
ダンジョンのシステム上、私学は召喚出来ない。
「僧侶養成はこの世界でも行われているから、備品はこの世界で作れば良いわけだが、ダンジョンの力が使えないのは、檀林の拡充には制約になるな。」
「このダンジョンの檀林は、いずれ、関八州のみならず、この世界で最も充実した僧侶養成機関にします。……と言っても、世界の反対側の情勢は分かりませんが。人工衛星……は難しいとしても、航空機……無着陸無給油ですよね。このダンジョンの工業力で可能なのでしょうか。」
「問題だらけだな。地形も気候も分からない。地平線を越えるから遠隔制御も困難。」
「この塔の頂上から、この世界の第一宇宙速度、秒速8.3km以上の速度で物体を打ち出せば、衛星軌道に乗りますが、転送陣の50倍の速度が必要です。それだけの高速を出せるロケットは、このダンジョンの手に余ります。」
「製造可能なのは、せいぜい面制圧の無誘導火箭だからな。転送陣を高速化させる訳には行かないのか。」
「技術的に無理ですね。あと、転送陣でも何でも、何らかの装置で加速する場合、重力の3倍、30m/s2で加速するとして、277秒、移動距離は1,150km。つまりダンジョン上空に長さ1,000kmの発射装置が必要になります。」
「無茶だな。」
「つまり、宇宙機の小笠原ペトゥレルが唯一の実用的選択肢で、かつ現状では手が出ない。ということですね。もちろん、他の異世界の同等の宇宙機でも構いませんし、この塔の頂上から転送陣を応用した電磁カタパルトで出発させれば、その分燃料は節約出来ますが。」
「ほんと、難しいな。」
「このダンジョンが赤道かつ月の直下に位置するなら、軌道エレベーターも選択肢でしょうが、それでも複製召喚する建物が足りませんね。」
「位置だけなら、いずれクローンダンジョンを置けば良いが、1万km以上の高さを稼ぐことが出来る公共施設……灯台や通信鉄塔はそこまで数が無いし、小学校は高さが低いから全部積み重ねてもたいしたことは無いし。送電鉄塔は民間だな。」
「そもそも、図書館都市ダンジョンのクローンダンジョンなら、やはり図書館しか召喚出来ない可能性が高いですね。ダンジョン構造物によるサイタマイルタワーのような物を積み上げるか……。いくらダンジョン構造物が頑丈とは言え、そこまでの耐荷重があるかは疑問ですが。」
「確か、商都梅田は民間施設も複製召喚していたな。」
「箕有百貨店は民間ですね。このダンジョンとはシステムが違うのでしょう。第三層群『池袋』の4つの百貨店も民間企業ですね。異世界同様、なぜか北口が南武で南口が北武ですが。」
「しかも南武鉄道って本拠は川崎だろ。品川にでも行けば良い物を。」
「ともかく、まだ先の話ですが、月の直下に設置するダンジョンは、このダンジョンのクローンであれ違うものであれ、何らかの形で軌道エレベーターを建設出来るダンジョンを選定すべきですね。」
「このダンジョンの影響圏自体をそこまで広げるわけにはいかないのか。」
「影響圏をこれ以上広げる方法は分かっていませんし、仮に広げたとしても、視界をそこまで広げるには、何千kmもの高さが必要です。」
「そんな数の図書館は異世界日本には無く、しかもそんなに高くなると、地上との行き来に転送陣と言えども時間が掛かりすぎるか。」