475:分割統治(誤用)
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「ウグイスとホトトギスか。でも、他の獣人でも、食べた食べられたと言った問題は……普通は獣人を食べないな。」
「キツネ獣人は動物のネズミの天ぷらが好物であって、ネズミ獣人を食べる訳ではありません。ですが、ホトトギス獣人は鳥のウグイスに子供を育てさせることは出来ず、ウグイス獣人に托卵するので、獣人同士の問題になりますね。獣人と言ってもケモノではなく鳥ですが、いずれにせよ宗教的には畜生道ですから問題無いでしょう。」
動物界が畜生道、植物界が修羅道、鉱物界が餓鬼道。
「草食動物も修羅は食べないな。」
「はい。動物も獣人も通常はそういうことはありません。ただ、芋虫は目が悪くて化学的に判断していますから、動物の芋虫が修羅に噛みつくことはありますね。害虫に髪を食べられて禿になった修羅は居ます。虫獣人がどうなのかは不明ですが。」
「このダンジョンでは巨大昆虫は潰れるから検証不能か。」
「蛸入道や魚人の一部は陸上で活動出来ますから、虫人も何らかの方法で外骨格や気門の制約を解消できれば、特定ダンジョン以外でも存在するかもしれませんが、分かりませんね。」
「このダンジョンには居ないが、寄生虫などはどうなるんだ?」
「さぁ。科の国に居るサナダ一族とか、獣人だと脳が必要なので大型化しますが、どうなのでしょうね。案外、名前だけサナダで、異世界同様にただの人間だったり。そもそもサナダムシというのも異世界では真田紐からの連想で、元は寸白と呼んでいました。」
真田氏が織紐をブランド化したので真田紐と呼ばれる。
「ダンジョンの規模が拡大しているため、そういう相性の悪い種族の扱いを早いうちに決めないといけないか。」
「動物同士の対立が獣人に影響するか。の判断が必要です。例えば、カラスは何が気に入らないのかフクロウを敵視していますが、獣人では別に対立する必要は無いので、分断して管理する、いわゆる『分割統治』を団結の妨害では無く対立の回避に使うことができるでしょうね。」
「住む場所を分けて接触を減らし、暴力行為はダンジョンの機能で監視する。か。」
「はい。本能的な怨恨は残るでしょうが、内心に留まればダンジョンとしては問題はありません。これが、例えばカラスがフクロウの一種、コノハズクを迫害したら、仏教全宗派を敵に廻しかねません。」
「それはまた大変だな。」
「鳥のコノハズクは『仏法僧』と鳴きますから、鳥獣人のコノハズクもこの影響で敬虔な仏教徒が多くなっています。」
「確か『ブッポウソウ』という鳥が居たはずだが。」
「それは別の種類です。異世界では長らく誤解されていましたが、この世界では獣人が居るので、正解は分かっています。」
「動物に由来する対立は押さえ込むにしても、カッコウやホトトギスなど托卵『しないといけない』鳥は、餓鬼同様にダンジョンから排斥しないといけないか。」
「ダンジョンの平穏のためには、それが一番簡単でしょう。ただ、ホトトギスには文学的な価値がありますから、何か良い方法を考えたいものです。」
「托卵させずに孵卵器で育てる……出来るのか?」
「動物のニワトリなら可能ですし、この世界にも技術は存在しますが、鳥獣人に可能かは分かりません。実験する、というのも失敗の危険がありますし、難しいですね。それに、カッコウやホトトギスは異世界の動物でも人工繁殖は難しかったはずです。」
「普通の鳥と鳥獣人は違いが多いから、まず動物実験、という訳にも行かないか。」
「失敗したら、普通に赤ん坊殺しですからね。」