474:ウグイスとホトトギス
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「マスター、いろいろ調べましたが、やはりこの世界では、ウグイスはホトトギスに托卵されるため、ホトトギスを酷く嫌っています。獣人のウグイスは法華経を奉じる信仰篤い種族ですが、仏教には殺生戒があると言えどもホトトギスを見かけたらケキョケキョケキョと鳴きながら突いたり蹴ったりするそうです。」
「彼らにとっては死活問題だからな。」
「ただ、ダンジョンの秩序維持のためには、『暴力の独占』といって、戦争も刑罰も政府が一元的に責任を負うべきですから、正当防衛の範囲を超えかねない迫害は好ましくありませんね。」
「マリーさんのように、仏教徒でありながら敵兵を皆殺しにするには、秩序維持という正統性が必要と。」
「いえ、わたしは宗教的な正当化はしませんし、『やむを得ない』と逃げもしません。ダンジョンの管理者にして、この地域の領主として、為すべき事を最優先にするだけです。」
「それで、ウグイスによるホトトギスに対する憎悪犯罪対策だが、ダンジョン影響圏内なら監視可能だから摘発は可能だが予防は困難……そもそも托卵を禁止すれば……ただ、それはホトトギスの緩慢な根切りになるか……。」
ジェノサイドという単語は無い。もちろん該当する行為は、この世界でもあまたの異世界でも散々行われている。
「この世界の感覚としては、最初からホトトギスを排斥しても人権問題にもなりませんね。問題は、ホトトギスですが、文学的には関係を持っておきたい種族ではあります。図書館都市ダンジョンは異世界から本を取り寄せるだけでなく、この世界の情報も収集しますから。」
「共存は困難か。」
「おそらく不可能ですね。ウグイスを抑圧しホトトギスによる托卵を強制するか、ホトトギスを排斥、今は居ませんから、今後の移住を拒否するかです。」
「後者の方が容易に見えるな。」
「確かに、ウグイスを奴隷化する場合、法華経を奉じる全宗派を敵に廻し、ダンジョンの僧侶が不足する事態が予想されます。それに、『不受不施派』なら、一方的にダンジョンの支援を拒否しているだけですが、ウグイスを迫害した場合、法華経を奉じない宗派にも動揺が拡がる危険性があります。」
「それは大変だな。それで、ホトトギスを拒否した場合は、その分、この世界の書籍の数が減る。ということか。」
「そうなりますね。それで、このダンジョンの外とは言え近隣にホトトギスが居る場合、このダンジョンのウグイスが山法師となって押しかける危険があります。」
「ダンジョンの外では証拠も確保出来ないし取り締まりは困難か。」




