473:食用ホトトギス?
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「この世界の文明が江戸時代並ですから、宗教政策も基本的には江戸幕府を参考にします。わたしは徳川家康ほど忍耐強くはありませんが。」
「『鳴かぬなら、こんがり焼こう、ほととぎす』だったか。」
「単に焼くより、本で焼く方がダンジョンエネルギーは多く得られますね。図書館ダンジョンなので死因は本が好ましくなります。もっとも、ホトトギス獣人では無い、ただの鳥のホトトギスではダンジョンエネルギーは得られません。ただ、ホトトギス獣人やカッコウ獣人は、この世界だと明らかに迫害・排斥されますから、存在するかは不明ですが。」
「差別されるのか。」
「獣人の習性は元の動物に影響されますから、托卵と言って、ほかの鳥獣人の卵を盗んで自分の子を育てさせる習性があると思われます。鳥ならともかく、さすがに獣人はヒナが別種なら気付きますから、当然排斥されることになると思われますね。」
鳥でもカッコウやホトトギスの卵を見分けて捨てる者も居る。
「自分では育てられないのか。」
「元からそういう性質自体がありませんから、獣人になっても難しいと思われます。あくまでも推測ですが。そもそも鳥獣人は『飛ぶ』という強みを、なかなか生かせませんから生存には不利ですね。」
「ダンジョン影響下で無い限り物理法則に縛られて飛べなかったな。」
「獣人と言えるだけの知能を持ち、なおかつ飛行するのは、基本的に不可能です。元からかなり頭の良い鳥で、なんとか無理矢理。といったところですね。ダンジョンの影響を受けるのも、ダンジョンと何らかの『繋がり』が無いと困難です。」
「『図書館』と関係があるか、地理的に異世界の大宮市付近と関係があるか。だったか。」
「前者がフクロウですが、ギリシャ神話に基づくもので、この世界では梟首とか梟雄とかイメージが悪いため、余計にこのダンジョンに避難してきています。後者の例が異世界で特別天然記念物のサギですね。」
「もし、ただの動物でダンジョンエネルギーが得られるなら、人間牧場では無い普通の牧場でいくらでもエネルギーが得られてしまうな。」
「でも、普通の動物からダンジョンエネルギーが得られたとしても、この世界ではあまり肉は食べませんから、牛馬の牧場を作っても効率は良くないでしょうね。異世界だと鶏以外の家畜は出荷しなければならず、牧場で肉にすることは法律違反ですから、やはりダンジョンがあったとしても死亡によるエネルギーは得られません。ですが、修羅では無い普通の植物、あるいは昆虫からエネルギーが得られるなら大変なことになります。」
正確には牛馬豚羊と山羊。大学の寮で山羊を飼って雑草を食べさせ、最期は解体して学生が食べたり留学生に振る舞う場合も、一度出荷しないといけない。
「ただの鳥のホトトギスでも、ダンジョンエネルギーは得られなくても食用にはなるかな。」
「人間は食べないそうですが、猛禽や蛇系の畜生なら……。」
「修羅と餓鬼は肉は食べないから、ホトトギスに用はないか。」
「マスター、餓鬼と一緒にしないでください。なお、修羅は液肥、無ければ野菜ジュースが食料ですから、植物のホトトギスなら食用に出来ますが、鳥の方は食べませんね。そもそも大抵の修羅は消化管を持ちませんから、胃で完全に消化できない物は食べません。マスターにも分かりやすく言うなら、体の中にウツボカズラの袋のようなものがあり、必要な液肥や水を吸収します。」
「それは知らなかった。」
「ちなみに植物のホトトギスは、山の方の人間は天麩羅やおひたしにして食べますね。この乾燥した世界では比較的希少な植物ですが。」
「確か、概ね異世界の江戸時代にいた動植物は、この世界にも居る。だったな。」
「はい。過去のダンジョンの影響か、いくらかの例外はありますし、この世界は乾燥しているので、生息数はだいぶ異なりますが。」
「砂漠惑星なのにサボテンが生えていたりはしないな。」
「西部劇みたいなサボテンは少ないですが、ウチワサボテン、この世界では石鹸体と呼ぶ物はそれなりには生えていますね。異世界の江戸時代には南蛮由来の珍しい植物でしたが、気候の影響もあるのでしょう。」
「誰かが、毒蜘蛛・サソリ・ガラガラヘビなどを持ち込んだら、殖える危険性があるか。」
「……あり得ますね。砂漠ダンジョンが異世界日本では無く北米か砂原か何かに準拠していた場合、そういう毒虫を入手出来る可能性があります。通常のダンジョンモンスターなら生きてはいないのでダンジョン外では活動できませんが、獣人ではなく普通の動物を名前付きモンスターとして召喚したりしたら大変なことになりかねません。」
サハラの原義は何も無い場所であり、砂という意味は無い。
「名前付きでも獣人なら、まだマシか。」
「獣人は同種で無いと繁殖できないため繁殖力が低くなり殖えませんし、蜘蛛やサソリの獣人は重力で潰れるためダンジョン影響圏外では生きられませんから。」