464:木曽五木ダンジョン
【木曽五木ダンジョン】
「檜科、チャマエシパリス・オブツーサ・阿寺コダクミ。木曽五木ダンジョンで、この付近の世話役をしておる。」
長身で裸の修羅が、同様に裸の修羅を何人か引き連れてやってきた。
「キンランや。すんまへん。コレウス氏族なのは分かっとるんやけど、正式な名乗りはよう分からん。」
「我が木曽五木ダンジョンの目の前で何をしておるか。」
「交易の申し出やな。」
「交易? 我ら森の者は外に求める物は無いが。」
「衣食住……服は要らへんようやけど……。」
「食事も草の汁、修羅に家など不要。」
家は要るやろ。と思うキンラン。
「必要な物は何も無いと。そりゃ困ったな。材木を買おうと思うとったんやけど。」
「材木? それはダメだ。木は育つのに何百年もかかる。」
「ダンジョンの力が十分あれば5年か10年で育つやろ。方法知らへんのやったら教えてもええんやけど。」
「そんな方法は知らないし、知ったところで使うことは無い。木は何百年もかけてゆっくり育つもの。あと、不心得者が居ないとも限らないので警告しておくが、『木一本、首一つ』。勝手に木を伐る者は首を失うことになる。」
「勝手に伐ったりはせえへん。そやけど木かて寿命はあるんやから、そのうち枯れるやろ。」
「ならぬ。木は何百年、森は何千年もかけて育ち、死後も何百年もかけて土に還ってゆくだけだ。」
「木曽谷は良い木材を産すると聞いたんやけど。」
「この木曽五木ダンジョンは木材は出せぬ。東の涸れ川沿いの寝覚の床ダンジョンには三返りの翁という雄の老桂が住んでおるが、ヤツも木を伐ることは許さまい。おおかた動物どもが流した無責任な妄言だろう。」
「見返りの翁?」
「砂漠の鉄砲水で3度ひっくり返っても、そのたびに萌芽を出して千年ほど生きている。ヤツが持つ秘薬は植物の生長に良いという話だが、そんな物に頼るつもりは無い。」
言うまでも無く、人間には効果が無い。薄めて禿げかけの頭に塗ると育毛効果があるという話もあるが……。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「今のところ、糸口は掴めませんね。物欲の無い相手は困ります。裸子植物では服すら売り込めません。」
被子植物であるマリーは、夏用のわずかに青みがかった白いワンピースを着ているが、実際の所、修羅なので別に服を着ていなくても異世界放送コードの問題は無い。もっとも、この世界は文化が江戸時代並であり、人間でも……。
「何かを売り込むのも難しいか。」
「不要な嗜好品を売りつける。くらいでしょうか。まだまだ識字率が低い地域と言うことを考えると、アヘンとかアニメとか。アヘンは商都梅田の北に『阿片の里』ダンジョンがありますが修羅には無意味ですし、この世界の技術力ではアニメは生産も流通もできません。」
「マリーさん、図書館の収蔵資料に無いか?」
「機械が無いと光ガラスの再生が出来ませんから、ダンジョンの外では使えませんよ。」




