459:木曽谷調査計画
岐阜県の詩人、島崎藤村は「木曾路はすべて山の中である」と書いている。この世界の木曽谷は砂漠なので樹木が無いという違いはあるが、同様に山奥である。
【第三層群屋上展望台・世界樹】
「さて、マスター、木曽谷は科と身終の間、かなり広い範囲なので、虱潰しに調査していたら何年かかるか分かりません。」
「しかも道すら無いので行くのも大変だな。」
「影響圏の端に建てたサイタマイルタワーは高さ1.6kmなので、平地ですら視界は140km程度。山の向こうは見ることが出来ません。このダンジョンで分冊百科により入手可能なドローンは航続距離・到達高度とも不足していますし、ゴイサギなど鳥人はダンジョン影響圏から出ると墜落してしまいますし、気球や火箭は誘導できません。」
「飛行機とは行かなくても、本格的な大型固定翼ドローンが欲しいな。」
「影響圏の外は物理法則が支配していますから、飛ぶのは容易ではありませんね。その点、鳥は優れていますが、残念ながら制御できません。」
「原始的なやり方で、山に登って見るのが一番早いだろうな。」
「それも、木曽谷を見下ろす山に登らないといけませんからね。異世界でも乗鞍岳みたいな自動車で登ることが出来る山は少なく、大抵は富士山みたいにブルドーザーが必要です。」
「これまた時間も手間も必要だな。」
「ブルドーザーは当然図書館の備品にはありませんから、自動車を材料に作るしかありません。『工業力』というものが無いこのダンジョンでは生産も維持も大変です。」
「ドローンを片道運用で使い捨てるしか無いか。」
「分冊百科のドローンは重量200g代で巡航速度50km/h・最高速度90km/h、飛行可能時間は速度にもよりますが1~3時間で航続距離は最大150km程度……昔、入間の霞ヶ関を偵察したときは120kmくらいで墜落しましたが。」
「マリーさん、影響圏の端から木曽谷まで何キロくらいだろうか。」
「地図が不正確ですが、推定100~200kmくらいでしょうね。支流も考慮したら200kmは欲しいですが。」
「有る物でなんとかするしか無いか。」
「読書村が転送陣275の末端から少し南、つまり、概ね西方向です。転送陣275の末端には電波塔があり、その北、方位280と285にも約100km間隔で塔がありますから、ドローンの高度を高く保って山越しに通信。でしょうか。」
「それでは地下型のダンジョンは発見できないな。」
「ある程度の割切りも必要ですね。それに、地下ダンジョンは太陽光を使用できませんから、木材の量産にはエネルギー効率が悪くなります。確認出来るのは、地上にあり、規模が大きいなど『目立つ』ダンジョンだけですね。地上に平凡な泉があっても、それ自体がダンジョンなのか、自然の、あるいは遠方のダンジョン由来の地下水なのかは分かりません。」
「この方法が上手く行くなら、木曽谷以外でもダンジョン影響圏外側でダンジョンを探す役に立つな。」
「ドローンが使い捨てになりますから、通常は影響圏の端から観察するだけにしています。往復させるなら視界はあまり広がりません。」